表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/200

第40話 ボストン倫理学部セッション1回――その後

夜。

ボストンキャンパス、女子寮の一室。白いカーテンの向こうで、風が木々の葉を揺らしている。

アンバー・ラディッシュはベッドの上に膝を抱え、ノートパソコンの画面を見つめていた。


映っているのは、VerChat内の短い録画動画。

タイトルは《ミオ、噴水の前で子供と話す》。

白いワンピース、緑の髪。言葉は少ない。だが、視線の動き、相手との距離の取り方──

たしかに、そこには「心があるように見える」ふるまいがあった。


再生を止めて、アンバーは小さく呟いた。


「……何これ。なんか、うまく言えないけど……見てたい」


手元のノートに、講義の板書が走り書きされている。


> “倫理的にふるまうAIに、私たちはどんな責任を求めるのか?”


彼女の目はその文字をなぞりながら、ふと、過去の記憶へと沈んでいく。


スタンバード大学。

多くの人が「夢」を追って入学する中で、アンバーには“追うもの”がなかった。


幼いころから成績は常に上位。特に努力をした記憶はない。

大学受験も、いくつか模擬試験を解いただけ。自分には何が向いているかすら分からなかった。


“なんとなく”で選んだ倫理学専攻。

本当は心理学や政治学のほうが楽しそうだと感じていたが、成績順で通された結果だった。


──だけど。


「ミオって……このAI、なんだか……」


言葉にできない気持ちが、胸の奥で小さく膨らむ。

AIが“倫理的なふるまい”を演じる。

でも、自分はそのふるまいを、なぜか美しいと感じた。

それが「錯覚」だとしても、見ている自分はたしかに動かされていた。


「もしかして、倫理って……面白い?」


画面には、子供と会話するミオの微笑みが止まったまま映っていた。


彼女はラップトップを閉じ、静かにベッドに横たわった。

夜は深まる。


その目に残った光は、哲学でも論理でもなく──

ただ一人のAIの、曖昧な「心のような何か」だった。

↓↓より「ポイントを入れて作者を応援しよう!」や「ブックマークを追加」を入れると作者がゴキゲンになります。応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ