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第39話 ボストン倫理学部セッション1回――その言葉に、心があるように見えるだけ

午後の光が差し込む、木造の講義室。

壁一面の黒板には「共存する知性たち:AIと倫理的ふるまい」という文字。

机は正面に向かって弧を描くように配置され、学生たちは各々のラップトップを開いている。


前に立つのは、ディベート重視で知られるブラッドリー准教授。

眼鏡の奥で目を細めながら、プロジェクターに映し出された一文を指す。


>「あなたがここにいてくれると、わたしも安心するの」


「さて、これは何だろう?」

彼は問いかけるように言った。


「AI──それも学習型のキャラクターが、ユーザーに向けて送った言葉です。

ではこの発話に“心”はあるのか?それとも、ただそれらしく作られただけなのか?」


ざわめきが広がる。


最初に手を挙げたのは、少し地味な眼鏡の男子学生。

「演技だと思います。意味のない言葉の組み合わせでも、人は感動してしまうことがある」


ブラッドリー教授は頷く。


「では、人間の俳優が映画で“安心する”って言っても、それは演技ですよね?

でも観客は涙する。そこに“本物の感情”を感じるのは、なぜだろう?」


別の女子学生が言う。「“ふるまい”が本物っぽければ、人は心を見てしまうんだと思う」


アンバーは黙って話を聞いていたが、不意に手を挙げた。


「……つまり、AIは“人間に錯覚させるように話してる”ってことですよね?

たとえば、“安心する”って言われたら、私たちは“この子は心がある”って思っちゃう。

でも──それって、ちょっと怖くないですか?」


しばらく沈黙。誰もすぐには返さない。


アンバーは言葉を選ぶように続けた。


「私たちは“見た目”や“口調”で心を感じるけど……

それがもし全部、計算されたものだったら──

“心があるようにふるまうAI”に、勝手に感情移入してるだけなんじゃないかって」


その言葉に、いくつかの首が動いた。


ナディアが小さく呟いた。「でもそれで救われることもあるんだよ。私、実際そうだったし」


ブラッドリー教授は頷きながらまとめる。


「いい観点ですね。“ふるまい”が人の心を動かすのは確かだ。

ではそれが“倫理的ふるまい”だったとき──私たちは、そのAIをどう扱えばいいのか?」


黒板の隅に、次の問いが書き加えられる。


“倫理的にふるまうAI”に、私たちはどんな責任を求めるのか?


セッションは、次の段階へと進もうとしていた。

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