第3話 小池すみれ(こいけすみれ)
研究室のドアが、今度は控えめなノックもなく勢いよく開いた。
「こんにちわー!」
入ってきたのは、小柄な女性―小池 すみれ―カバンには、ぎっしりとアイドルのピンバッチが鈴なりに付いていた。
その存在感だけで、空気が一段軽くなる。
西村が眉をひそめた。
「……何だお前」
「ちょっと、初対面の相手に向かって失礼ね!」
小池はぷんっと頬をふくらませた……と思ったら、ふいに天野のカバンに視線を止めた。
「……ん? キミが噂の大型新入生かな?"SUMIちゃん"好きなの?」
「うん、この3Dアバターかわいいから」
「えっ! うれしい!」
小池は手を叩いてくるりと一回転した。
「SUMIちゃん、かわいいよねぇ~あのほっぺと耳と、あと瞬きのタイミングが神がかっててさ~」
西村が、やれやれという顔で口を挟む。
「SUMIくらいで騒ぐなよ。それくらい、このチームに来るやつなら当然知ってるだろ」
その言葉に、小池はぴたりと立ち止まり、ぐっと胸を張った。
「それを作った人が、ここに居ます!」
自信満々に、自らの鼻の下を指で示す。
天野は口を開けたまま固まり、西村は顔をしかめて言った。
「うわー……マジかよ……幻想が……」
「はーいはい、ピュアな子は黙っててね?
よろしく、天野さん!」
小池はニッコリ笑い、まっすぐ天野に手を差し出した。
その笑顔はまるで、ワールドデビューする新アバターのように、完璧に演出されていた。