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第38話 ボストン倫理学部、昼休みの会話

スタンバード大学ボストンキャンパス。

西海岸のサンノゼが、最先端の技術開発の“炉”だとするなら、

この東海岸のボストンは、そこから立ちのぼる熱を冷静に観察する“鏡”である。


人文系学部の中でも、哲学と倫理の研究棟は、特に古いレンガの建物が並ぶ一角にあり、

世界中から集まった学生たちが、ディベートの腕を磨いていた。


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「ミオ、って名前だったかな。

今日の午後の講義で、取り上げられるってさ。

東京キャンパスで動いてるAIプロジェクトらしいよ」


カフェテリアの隅、4人がけのテーブル席。

ランチトレーを囲んで、学生たちが紙ナプキンを折りながら話している。


「うん、私その観察アカウント、Xでフォローしてるよ。

たまにすっごい刺さる言葉を返してくるの。かわいいし、ちゃんと考えてるように見えるんだよね。

サンノゼのHELENプロジェクトと共同研究になってからは会話しなくなっちゃったけど…」


話しているのは、ヘーゼル色の巻き髪を揺らすクラスメイト、ナディア。

スマホを見せながら、ミオのスクリーンショットを何枚もスクロールしていく。


「“人間が悲しむのを見ると、わたしの中に温度差ができるの”とか、

“あなたがここにいてくれると、わたしも安心するの”とか。

やばくない?AIがそれ言うんだよ?人間でもそんなこと言わないのにさ」


「うわ、それほんとにAIなの……?」

と、隣の学生が目を丸くする。


そのときまで無言でスープを啜っていたアンバー・ラディッシュが、ふと顔を上げた。


「それってつまり──AIが“人間っぽく見せるために、そういうふうに話してる”ってこと?」


「え?」


「なんていうか、“本当に思ってる”ように見せてるだけかもしれないじゃない?

それで人が“心がある”って思っちゃうなら──逆に、ちょっと怖くない?」


少しの沈黙。


アンバーは、パンをちぎりながら言った。


「私、倫理ってルールを守る話だと思ってて、正直あんまり好きじゃなかったけど……

そういう“ふるまい”で人の気持ちが動くなら──ちょっと、気になるかも」

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