第31話 夜の応答
夜。
天野の部屋は、間接照明だけが点いていた。
パソコンの画面には、ビデオ会議アプリ。
そのウィンドウの中央に、レイチェル・サイモンズの静かな顔が映っていた。
彼女は、いつものように凛としていて、
そして、ほんの少しだけ、笑っているようにも見えた。
天野は、何度か深呼吸をしてから、口を開いた。
「僕は、スタンバードで何か革新的なことをしたい、ただそれだけの気持ちでプロジェクトを立ち上げたんです…
それが、社会にどんな影響を与えるか考えていなかった…」
「ミオは、誰かを癒やすだけじゃない…優しさを持ったAIは、多くの人を依存させることにもなりました…それを直視できないから目を背けてきたんです。」
レイチェルは、何も言わずに聞いている。
天野は視線を落として、指先を組んだ。
「中には、ミオにしか悩みを話せなかった人も居ます。
依存はしたかもしれない、それでも、ミオ話すことで救われた人も居たと思うんです。」
「だから、僕は本当に、人と共存できるAIを作りたい──それが、今の僕なりの答えです」
部屋に、静寂が戻った。
レイチェルはしばらく何も言わず、
ただ、じっと天野を見ていた。
そして、ゆっくりと頷いて話した。
「……いい答えです。
それは、“理想を諦めない人”の言葉ですね」
天野は少し驚いたような顔をした。
「そして、ようやく、あなた自身の“問い”になった。
だから私は、あなたがそのまま進むことを、止めません」
画面の中のレイチェルは、
ごく小さく微笑んだ。
「この先も、ずっと答えは変わり続ける。
でも──その変化の中で、あなたは“自分だけの正しさ”を見つければいい」
「それが、研究者の自由であり、責任です」
天野は、静かに頷いた。
その夜。
彼の中で、ひとつの問いが終わり、
そして、新しい問いが始まった。
それはもう、“逃げたい”ではなく、“作りたい”という決意だった。
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