第29話 割り切ってしまった者たち
天野がミハウに連れ出された後、
一瞬の静寂を破るように、小池が立ち上がった。
「……あんた、今のはないわ」
西村はまだコーヒー缶を手にしていた。
「何が」
「“ヘビの研究者がラットに同情すんのか”ってやつよ。
──今言うことじゃないでしょ、あの子に」
「……言わなきゃ、誰が言うんだよ」
西村は言い返すように缶を置いた。
鈍い音が研究室に響く。
「現場の熱に流されて、誰も冷静な判断ができなくなる。
だったら俺が悪者になるしかねぇだろ」
「それ、ただの“切り捨て”になってたよ。
あんた、冷静どころか……誰よりも感情に支配されてた」
西村は小さく舌打ちして立ち上がる。
「……ったく、めんどくせぇ。
ちょっと、教授、捕まえてくる」
「……は? どこ行くつもりよ!」
「だから、教授捕まえてくるっつってんだろ!
“正義の味方”じゃねぇ俺が行った方がまだ話が早いわ!」
そう言い放って、西村は乱暴にカードキーを取って出ていった。
その場に残された小池と李は、互いに軽く目を合わせただけだった。
小池は深く息を吐き、椅子に崩れ込む。
「……あの人、ほんと不器用」
「でも……行動の優先順位は、案外一番まともかもしれませんね」
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