第2話 西村海斗(にしむらかいと)
「お、いたいた、変人」
突然、ドアが開いたかと思うと、ヨレヨレのジャージ姿の男、西村 海斗がずかずかと入ってきた。
首からはVRセットがぶら下がっている。片方のレンズはテープで補修されていた。
「……は?」
天野は言葉を失った。
「いやいや、こっちのセリフだよ……」
西村は勝手に椅子を引き、足を組んで座ると、ラップトップの画面をのぞき込んだ。
「お前か、入学前から研究プロジェクトの申請してきた変わり者は?学校中の話題だぜ。で? やってるの、メタバース?」
「うん。AIとメタバースを組み合わせたら、面白いことができるんじゃないかと思って」
「ははっ、やっぱお前みたいな変人と組むと面白そうだ。
スタンバードだなんだと肩書きは立派だけど、こっちの東京キャンパスの内実はお寒いもんだよ。
研究室は静かだし、誰も“変なこと”をやらない」
「……いや、それを言うあなたが言う?」
(この人に変人呼ばわりされるの、納得いかないんだけど)
「ところで、なんでVRをぶら下げてるのさ?」
「今はランチタイムだろ? 昼寝にはこれが一番さ。
ほら、アバターで草原の真ん中に寝そべると、風の音で脳が溶ける。マジで。」
「……やっぱりこの人すごいな。いろんな意味で」
西村は机に置かれていた研究申請書を手に取り読み始める。
「お、これが例の研究申請ね。……ふーん……」
------------------------------------------------
【研究申請内容:ミオ・プロジェクト 概要(抜粋)】
プロジェクト名: 社会共存AI「AI-MIO(Multi-modal Interaction Operator)」プロトタイプ開発
目的:
仮想空間VerChatにおいて、人間と自然に対話し共存するAIアバターの開発。
観察と共感を通じて、AIが人間社会で共存できるかを記録・解析する。
特徴:
・リアルタイム対話による人間の反応観察
・PASS(Processing Assistant for Social Sensibility)を用いた演出最適化
・メタバース環境における**感情モデルの生成・評価**
必要な役割:
・ 対話生成モデル設計(LLMベース)
・音声・モーション演出
・アバターデザイン
・実験ログ解析・データ処理
備考:
・初心者OK。人とAIの共存に興味ある人歓迎。
・「かわいい」を科学したい人、求ム。
------------------------------------------------
西村は内容を一通り読み終えると、にやりと笑った。
「“かわいい”を科学ねぇ。……最高だよ。やる」
天野は少し驚いて聞き返した。
「ほんとに? 今読んだばっかりだよ?」
「うん。だから面白い。思いつきで動けるやつじゃないと、世の中は変えられない。
……ってわけで、明日からよろしく、代表さん」