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第278話 その後2、ミオプロジェクト

――スタンバード大学東京キャンパス 会議室


重いドアが静かに閉まり、ミオプロジェクトの五人が会議室に入った。

そこにはすでに、エリス・マクレガー教授と、国連本部から派遣された査察官が座っていた。

端正な顔立ちの白人男性で、年齢は四十代半ばだろうか。表情は穏やかだが、視線はよく研がれている。


一同が席に着くと、形式的な挨拶は最小限に抑えられ、すぐに本題に入った。


「今回の問題についてですが、皆さんはどうお考えですか?」


その問いに、李が間髪入れずに反応した。


「お言葉ですが、“問題”とは具体的に何を指しているのでしょう?」


査察官は一瞬、言葉を探すように視線を泳がせた。

予想外の切り返しだったのだろう。しかしすぐに態勢を立て直す。


「あなた方は、自らが開発したAIが、

一部の利用者において

“信仰の対象として機能し始めていた”

可能性について、認識していましたか?」


李は小さく息を吸い、落ち着いた声で答えた。


「ご質問の意図は理解しました。

しかし、それは私たちが“問題”として扱うべき事象ではありません」


査察官は否定も肯定もせず、続ける。


「では、確認します。

あなた方が“宗教的な意味付け”を、事象として明確に認識したのは、いつですか。

日付。きっかけ。誰が最初に把握しましたか?」


「ミオにどのような問いかけが行われたかは記録しています」

李は淡々と続ける。

「しかし、研究内容としてミオに宗教的な意味づけがあるかどうかは、ラベル付けしていません」


「それはなぜですか?」


「公聴会以降、我々はAIの倫理指針を再確認した上で研究を続けました。

倫理上、“AIが崇拝の対象になってはならない”という明示的な指針は存在しません。

また、仮にそう定義したとしても、私たちのAIは宗教的なふるまいをしていない。

そのため、研究上、特別に記録する必要はないと理解しています」


査察官は少し考えるように間を置き、言った。


「つまりあなた方は、

“AIが宗教的に振る舞っていない限り、人間側で宗教的行為が発生していても、

それは研究の対象外である”

という立場なのですね」


そのとき、天野がためらいがちに手を挙げた。


「……少し、発言してもいいですか」


全員の視線が集まる中、天野は申し訳なさそうに言葉を選んだ。


「私は日本に生まれ育って、家のお墓はお寺にあります。

だから仏教徒に近い感覚はあるんですが……正直に言うと、キリスト教のことを深くは知りません。

AIの開発者は、地球上のすべての宗教行為が何かを、理解しなければならないのでしょうか。

そういう意味では……私は、ミオが宗教的な要素を帯びているという認識を、持つことができませんでした」


査察官はその言葉を最後まで聞き、短く答えた。


「分かりました。

あなた方は、プロジェクトを休止すると聞いています。

天野さん、今後も査察には協力されますか?」


「はい」

天野はすぐに答えた。

「プロジェクトは休止となりますが、研究室のメンバーは、引き続き真摯に事実を報告します」


そのやり取りを聞いていたエリス教授が、静かに口を挟んだ。


「君たち、もう席を外していい」


五人が一礼し、会議室を後にする。

ドアが閉まると、室内にはエリス教授と査察官だけが残った。


エリスは椅子に深く腰掛け、ぽつりと尋ねた。


「……で、今後はどうしますかな?」


査察官は苦笑に近い表情を浮かべた。


「さあ……“史上最悪の研究員”たちですよ。

宗教的な問題を引き起こした研究者の多くが東洋出身で、

しかも当人たちには宗教的自覚がほとんどない、となると……」


「まずは宣教から、ですかな?」

エリスが皮肉めいた口調で返す。


「冗談じゃない」

査察官は肩をすくめた。

「今は21世紀です。

国連本部には第一次報告として概要を上げますが……

上の連中は、誰一人として深入りしたくないでしょう。」


彼は立ち上がり、エリス教授に短く礼をした。


「では、失礼します」


そう言って会議室を後にする。

静けさが戻った部屋で、エリス教授は一人立ち上がり、窓から外を見続けていた。

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