第277話 その後1、デニス・R・ハーディング大統領
――ホワイトハウス 西ウィング 大統領執務室
重厚な机の向こうで、デニス・R・ハーディング大統領は静かに資料に目を通していた。
西ウィング特有の、時間が圧縮されたような空気の中、スタッフの声だけが淡々と響く。
「それでは……すでに停止したAIに対して、
大統領令を出される、という理解でよろしいですね?」
ハーディングは、ペンを指先で転がしながら答えた。
「そうだ。
この国は、自由の国である前に、法と秩序の国だ。
すでに止まっているからこそ、
止めた理由を、国家として記録に残す必要がある」
顔を上げる。
「これは制裁ではない。
セレモニーだ。
――メディアを入れてくれ」
扉が開き、カメラマンと記者たちが一斉に入室する。
フラッシュが瞬き、静かなざわめきが広がった。
ハーディングは立ち上がり、署名台へ向かう。
一瞬だけペン先が止まり、そして――
サイン。
シャッター音が連続し、
大統領令は発令された。
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大統領令 第14,892号
アメリカ合衆国憲法及び合衆国法により付与された権限、
ならびに議会により制定された
緊急AI安全確保法(Emergency Artificial Intelligence Safety Act)
に基づき、ここに以下を命ずる。
以下の対話型人工知能サービスを、
本大統領令に基づく指定対象とする。
サービス名:VerChat
対象アカウント:AI-MIO
本大統領令に基づく停止措置は、
発効日より60日間有効とする。
必要と判断される場合、
大統領は、議会への報告を行った上で、
本措置を延長することができる。
2026年6月15日
ホワイトハウス
デニス・R・ハーディング
アメリカ合衆国大統領
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―― 数か月後
ホワイトハウスの記者会見室。
報道官が、用意された原稿を淡々と読み上げる。
「合衆国政府とスタンバード大学は、
他の大学と同様、
入学選考におけるスタンダードおよび
アファーマティブ・アクションの見直しを前提に、
連邦政府と和解に至りました」
フラッシュが焚かれる。
記者が手を挙げた。
「今回の一連の出来事に、
あのAIの影響はあったのでしょうか?」
報道官は一度、大統領の方を見る。
ハーディングは自らマイクを引き寄せた。
「大統領は自らの責務は果たしました
必要な時に、必要な権限を行使しました。それだけです。」
少し間を置き、続ける。
「大統領はAIの恒久的な規制については、
現在、議会で議論されている。
それが、あるべき民主主義の姿だという考えです」
質問は続いたが、
その中に――
ミオという名前を、
もう口にする者はいなかった。
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