第273話 緊急立法
―― 下院 情報技術・消費者保護小委員会 控室
火曜日・夕刻
控室には、急ごしらえの長机と紙コップのコーヒー、
そして数十枚の修正案プリントが散乱していた。
ノートPCの冷却ファンが小さく鳴っている。
スタッフたちは資料を抱え、走り、立ち止まり、また走る。
まるで災害対策本部のような慌ただしさだった。
机の中央には、一枚の文書が置かれている。
“Emergency Authority for Digital Platform Interventions Act”
(デジタル・プラットフォーム緊急介入権限付与法案)
ノア・C・グレイディ共和党筆頭補佐官と
タイラー・M・アデルスタイン民主党筆頭補佐官が並んで座り、
スタッフの説明に耳を傾けていた。
ノアが指を組み、低く尋ねる。
「規制の範囲は?」
スタッフ
「最低限です。
AIそのものの規制ではなく、
“特定のサービスにおける特定アカウントへの介入権限” に絞りました。」
タイラーが頷き、ノアの方を見る。
「緊急措置で通すんだ。
幅を広げすぎると議会が止まる。
……今は最低限でいい。」
スタッフが急いでページをめくり説明を続ける。
ノア
「なるほど。
特定サービスのアカウントを“対象指定”することは、
法律上定義可能なんだな。」
別のスタッフが、民主党側の合意文書を持ってくる。
タイラーはペンを置き、疲れた笑みを浮かべる。
「民主党も、この内容ならOKが出せる。
君たちスタッフも大変だろうが……
ここは踏ん張りどころだ。」
室内には、コピー機の印刷音が響いていた。
書類の束を抱えた若いスタッフが飛び込んでくる
若いスタッフ「先生、合衆国機密情報保護小委員会の反応です。」
ノアが資料を受け取りながらつぶやく。
「奴らも“問題を放置した”と泥を塗られている。
我々の動きを無視はできんさ。」
タイラー
「向こうの要求はどうする?」
ノア
「丸呑みだ。
対外的には“国家安全保障案件”として一本化したいらしい。」
タイラーはやや肩をすくめる。
「……OK。
どちらの小委員会も同じ内容で採決するんだな。よし、行こう。」
その瞬間、スタッフたちは互いを確認し、
四方へ散っていった。
修正案を持つ者、議院運営委員会に走る者、
ホワイトハウスとの連絡を取る者。
控室は、嵐の前触れのようにざわついた。
―― 下院 本会議議場
火曜日・夜
議員たちは次々と投票ボタンを押しながら、
党派の壁をこえるように談笑している。
そこに、分断したアメリカの姿はなかった
投票タイマーがゼロを示す。
議長の木槌が静かに振り下ろされた。
「結果を発表します。
デジタル・プラットフォーム緊急介入権限付与法案…本法案は……全会一致で可決されました。」
議場では、拍手が起きる。
共和党席も、民主党席も、同時に立ち上がる。
赤と青の境界は、
この晩だけは、たしかに消えていた。
そして、
この瞬間をもって——
『ミオを規制する権限』が、大統領に正式に与えられた。
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