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第272話 大統領の演説

―― ホワイトハウス 記者会見室


会見室の天井には、

午後の光が薄く差し込み、

記者たちのノートパソコンの天板に反射していた。


CNNのカメラはその様子を生中継し、

画面下の字幕には BREAKING NEWS の赤い帯がずっと点灯していた。


>“UN Headquarters Gathering Turns Chaotic — President Harding Reviewing Situation”

>(国連本部前の混乱—大統領、状況を精査)



ホワイトハウスのスタッフが会見室へ入ってきた。

普段より硬い表情だ。


報道官がCNNのカメラの前に立ち、

マイクを調整する。


「皆さん、今からご案内します。

大統領が自ら声明を発表します。

準備が整いしだい、こちらの会見室で行われます。」


記者たちのざわめきが一斉に広がる。


CNNのキャスターがリポートを入れる


> 「視聴者のみなさん、いま速報が入りました。

> ハーディング大統領が自ら演説を行うということです。

> 国連本部の混乱を受け、緊急の対応と見られます。」



やがて、ブリーフィングルームの奥から、

黒いスーツのシークレットサービスが配置につき始める。


そして、扉がゆっくり開き、

ハーディング大統領が姿を見せた。


厳しい表情。

言葉を選ぶというより、

すでに覚悟を固めた者の顔だ。


演壇に立つと、

わずかに深呼吸し、

記者席を見渡した。


ハーディング大統領

「アメリカ国民のみなさん。

我々は今、異例の状況に直面しています。」


一瞬だけ間が置かれる。


「この国では、信仰の自由は憲法で最も強く保障された権利だ。

しかし、どのような信仰であれ、

法と秩序を超えてよい理由にはならない。」


静まり返る記者席。

大統領は続ける。


「今日、ニューヨークで発生した混乱は、

単なる集会の問題ではない。

すでに国家の安定、安全、そして公共秩序に影響を及ぼしている。

これは——

国家安全保障上の問題へと発展している。」


CNNの画面下で字幕が瞬時に切り替わる。


BREAKING

“HARDING: AI PROPHET UNREST NOW A NATIONAL SECURITY ISSUE”

(ハーディング:AI預言者を巡る混乱は国家安全保障問題)


大統領の声がさらに重くなった。


「アメリカ大統領には、AIを単独で規制する権限はない。

その権限は議会に属している。

しかし——

国家安全保障が脅かされるその瞬間、

大統領は行動する責任がある。」


記者たちが一言一句を書き取る。


「私は、議会と協力し、

社会の安定を守るために必要なあらゆる措置を検討する。

そして国民に約束する——

この国が混乱に飲み込まれることは決して許さない。」


ハーディングは視線をカメラへ向けた。


「我々は、アメリカ合衆国である。

誰にも、何者にも、秩序を壊させはしない。」


それだけ言うと、

大統領は原稿を折り、

記者の質問を受け付けることなく退室した。

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