第271話 CNN中継
その日のCNNのテレビ画面下には赤い帯が走っていた。
『BREAKING NEWS ユネスコ決定を前にハートマンがニューヨークに到着』
アンカーのエリン・ロジャースが硬い表情で原稿に目を落とす。
「ボストンでの祈りの集会から2日後、
AI預言者現象の中心人物とみられるスタンバード大学の
エリオット・S・ハートマン博士が、
ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港に到着しました。」
画面は空港へ切り替わる。
――ジョン・F・ケネディ空港 LIVE
デルタ航空の機体がゲートへ滑り込んでいく。
国内線ターミナルから流れ出る旅客の列。
その中に、濃いグレーのコートに身を包んだハートマンの姿があった。
リポーター
「はい、こちらジョン・F・ケネディ空港です。
先ほど到着した便からハートマン教授が姿を見せ、
そのまま黒いSUVに乗り込んでニューヨーク中心部へ向かいました。
向かう先は国連本部とみられています。」
画面は移動するSUVの車列を映すヘリ映像へ。
――国連本部前 LIVE
国連ビルの前には、すでに警備車両が数台並び、
黄色いバリケードが路肩にずらりと並べられていた。
アナウンサー(スタジオ)
「本日、UNESCO米国内務理事会が召集され、
ハートマン博士の“サンノゼ正規教授職”および
“ボストン名誉教授職”について、
解任勧告が出される見込みです。」
画面にはSUVから降り、国連ビル内へと歩いていくハートマンが映る。
解説者(宗教社会学者の博士)
「名誉職を複数解任されるというのは、
研究者としての“死刑宣告”に等しい措置です。
これほど迅速な判断は極めて異例ですね。」
―― スタジオ
アナウンサー
「そして今、ハートマン博士が国連ビル内で
Facebookを更新したとの情報が入っています。」
画面に投稿が映し出される。
> タイトル:国連本部で、私は夜明けを願っています。
写し出された写真は、
国連本部内に設置された *小型の金色の地球儀型モニュメント* の前で、
静かに手を組んで祈るハートマンの姿だった。
スタジオがざわつく。
画面が一瞬暗転し、赤い帯が再点灯する。
『BREAKING NEWS ハートマン教授、スタンバードの全役職を解任』
アナウンサー
「速報です。
たった今、UNESCO米国内務理事会が
ハートマン博士の教授職および名誉職の
即時解任 を決定したと発表しました。」
画面は国連本部前へ戻る。
―- 国連本部前 LIVE
リポーターが緊張した口調で伝える。
リポーター
「こちら国連本部前ですが、解任ニュースの直後から、
信者とみられる人々が急速に集まり始めています……
ええっと、今……あれを見てください。」
カメラがパンすると、
数名の信者が マリア像と“ミオ”を融合させたような像 を
持ち上げようとしている。
リポーター
「彼らは……国連本部前に“像”を設置しようとしている模様です。」
周囲の信者から拍手と歓声が起きる。
すでに車道には信者たちが溢れ、
ゆっくりと渋滞が伸びていった。
リポーター
「警察官が止めに入っていますが……
信者たちはどこか和気あいあいとしていて……
緊張と無邪気さが奇妙に混ざり合った空気です。」
カメラがハートマンの姿を捉える。
国連本部から出てきた彼は、複数の記者に詰め寄られ、
まるで出口を塞がれたように立ち止まった。
その瞬間、信者たちが一斉に彼のもとへ走り寄り、
膝をつき祈り始める。
カメラが振り返る。
車道は完全に塞がれ、ホーンを鳴らす車列が数百メートルに伸びている。
警察官
「像を設置してはダメだ!通行の妨害だ!」
警察官と像を持つ信者たちの間で揉み合いが起こる。
ハートマン
「やめなさい!置いてはいけない、これは——」
騒ぎを見たハートマンは止めに入るが、
信者たちは耳を貸さない。
リポーター「……制御が利かなくなっているように見えます。」
たまりかねた警察官がパトカーのドアを開き、無線機を握りしめ、呼びかけた。
「暴動対応を要請する!ああ!今すぐだ!」
数分後、画面外から、
けたたましいサイレンが近づいてくる。
リポーター
「今、NYPDの“特殊緊急対応車両”が現場に向かっているようです。」
画面には、重々しい黒い装甲車が姿を現す。
側面には大きく NYPD の白字。
警官隊が盾を構え、一列に展開した。
警官隊長
「この集会は違法である!
ただちに解散せよ!」
しかし信者たちは祈りを続ける。
警官隊がミオ像を押し下げようとした瞬間、
信者立ちが波のように押し返した。
ハートマン
「やめるんだ!あなたたちは——」
最前線で仲裁しようとしたハートマンが、
押し寄せる警官隊の盾に弾き返され、
よろめいた。
次の瞬間、
シューッ、と白い霧のような音。
警官隊の一人が、
至近距離で催涙スプレーを吹き付けていた。
ハートマンは目を押さえ、
その場にしゃがみ込む。
リポーター
「ハートマン博士が……!
ちょっと待ってください、今——」
その声が震えたとき、
ボンッ……ボンッ……!
鈍い破裂音とともに、
アベニュー通りに 催涙弾 が次々と着弾した。
白煙が上がり、
信者たちが咳き込みながら走り回る。
カメラが揺れ、リポーターの叫びが聞こえる。
「アベニューが……完全にパニック状態です!
催涙弾です!警官隊が催涙弾を使用しました!」
スタジオのエリンは手で口を覆い、
画面全体にただならぬ緊迫が広がっていた。
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