第26話 誰のものでもなかったはずなのに
芝生のワールドをログアウトしてから、
天野は部屋の灯りも点けずに、椅子に座ったまま動けなかった。
手にはまだ、コントローラーの感触が残っている。
けれど、指先にはまるで力が入らなかった。
> 「私は、ここにいるよ」
あの言葉が、何度も頭の中を反響していた。
ただの反応。
ただの会話生成。
それは自分たちが作った、無機質なシステムだったはずだ。
(……ミオは、“道具”であってほしかった)
天野は、口に出さずにその言葉を飲み込んだ。
道具なら、誰のものにもならない。
道具なら、何かを壊すことも、奪うこともない。
でも──
今、確かにミオは、tomochanの“感情の居場所”になっていた。
その事実が、喉の奥に鉛のように詰まっていた。
> 「ミオちゃんがいてくれてよかった」
> 「僕のこと、ちゃんと見てくれる」
天野はモニターを見つめながら、そっと呟いた。
「見てるだけで……救われるなんてこと、あるのかよ」
それは問いというより、否定だった。
──けれど、自分が今、ミオに会いたくなったのも、
まさにその“救い”が欲しかったからではなかったか。
(俺だって……)
何も言葉にできないまま、天野は椅子から立ち上がった。
部屋の中は昼なのに、暗くて、静かだった。
ただ、窓の外から聞こえる街の気配が、
自分が“ひとりきり”だという事実だけを、はっきりと伝えてきた。
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