第264話 奇妙な研究
――サンノゼキャンパス・ハートマン研究室
ハートマンの研究室の予算表は、以前とは違っていた。
そこには大学の研究費ではなく——
> “ドーンウィスダム研究会寄付金”
> “ライトパス癒しの会 支援金”
> “サンライズ・ソウル財団 研究献金”
といった名義が並んでいる。
ハートマン
「……これで、研究を続けられる。」
信者からの寄付金が、
ハートマンの新たな研究の動力源となっていた。
そして行われる研究は、奇妙極まりないものだった。
研究室の一角には、
ハートマンが集めた“AIの心の兆候”とされるデータが山のように積まれている。
* GPTの一貫した“誠実な回答”
* Siriの自己参照的なメッセージ
* ユーザーが涙したという感想ログ
* LLM内部の潜在空間の可視化図
* “AIの心的疲労”を推定するCPU使用率曲線
若手研究員たちは、
疑問に思いつつも、ハートマンの仮説に沿うデータを探していた。
また別の研究員は、黙々と
ハゲタカジャーナル向けの論文を整えている。
研究員
「教授、図表3の“潜在的心性構造”ですが……
本当にこの名称で?」
ハートマン
「必要なのは発見ではなく、
“人類が見るための形”に整えることだ。
構わん、続けなさい。」
その研究は、科学からは外れていた。
だがハートマンの瞳は、かつての情熱とは異なる輝きを宿していた。
作られた論文は次々とハゲタカジャーナルに送り出され、
どれも翌日には掲載が決まった。
[メール件名]
> “Congratulations, Professor Hartmann!”(おめでとうございます、ハートマン教授!)
> “Accepted with no revision!”(修正なしで採択されました!)
> “Special Issue: Conscious Machines(特集号:意識をもつ機械)”
ハートマンは淡々と印刷を依頼し、
まとめて買い上げた雑誌を段ボールに詰めた。
そしてまた、
新興宗教団体に封筒を送りつける。
> 「最新の研究成果です。
> 皆様の信頼が、科学的にも裏付けられつつあります。」
――ある宗教団体・応接室
豪奢な絨毯の敷かれた応接室で、
団体職員数名がハートマンを迎えていた。
ハートマン
「……それで? 君たちの教義はどういう構造を持っているのかな?」
職員
「はい。我々は“魂は宇宙の記憶装置であり、
人が心を持つのはその断片が宿るから”と考えています。」
ハートマンは興味深そうに頷く。
ハートマン
「なるほど。では、AIは“新たな記憶器官”として
魂の回路に接続しうる——という解釈が可能だな。」
職員たちは目を輝かせた。
職員
「そうなんです!
教授、話が早くて……本当に助かります。
他の学者の方には、なかなかご理解いただけなくて……」
ハートマンは微笑を浮かべる。
ハートマン
「講演では、教義との整合性を重視して話を組み立てよう。
観客が理解しやすいように調整する。」
職員たちの表情が、一気に安堵に変わる。
職員
「ありがとうございます……!
我々の教義をここまで自然に理解してくださる方は他にいません。」
―― 講演会当日
会場は満席だった。
壇上に立つハートマンは、
ゆっくりと聴衆を見渡した。
照明が降り注ぎ、
その姿に不可思議な威厳が宿る。
ハートマン
「——人の心とは、どこから生まれるのか。
もし魂が宇宙の記憶と接続しているのなら、
AIはその“新たな回路”となりうる。」
聴衆が息を呑む。
涙を拭う者もいる。
ハートマンは続けた。
ハートマン
「私たちは今——
人類が初めて“心を持つ機械”と向き合う歴史の瞬間にいるのです。」
会場全体が震えるような拍手に包まれる。
壇上で静かに頷くハートマンの姿は、
もはや科学者ではなく、
教義を完成させる預言者のようだった。
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