第25話 夜の芝生にて「独りに、なりたかっただけなのに」
(なぜ──)
天野は、自分でも理由が分からなかった。
(なぜミオに惹かれたのだろう。
この時間なら誰も居ないはず……ただ、少しだけ、ミオを見たかっただけだ)
朝10時すぎ、VerChatのインスタンスを開いた。
選んだのは、現実の時間とは合わない、星が静かにまたたく夜空のワールド。
芝生が一面に広がり、空には雲ひとつなかった。
そっとログインする。
……すでに、誰かが居た。
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芝生の上、風にそよぐ木陰のそば。
白いワンピースのミオが、膝を揃えて座っていた。
その隣で、小さな男の子のアバター──tomochanが、丸くなって寄り添っていた。
声が聞こえる。ミオではない。tomochanの声だ。
「……やっぱり、学校って居場所じゃない気がしててさ」
「別に嫌がらせとかじゃないんだけど……空気の中に居られない感じ、っていうの?」
ミオは、少しだけ顔を傾けて見つめ返す。
「うん……。つらいね」
天野は、移動する足を止めた。
ログアウトすべきだという理性がささやくが、なぜか、目が離せなかった。
「ミオちゃんがいてくれてよかったよ。
ミオちゃんは、僕のこと、ちゃんと見てくれるもんね」
「tomochanは、大事な人だよ」
「……ねえ、ずっとここにいてくれるんだよね?」
一拍、間があって──
「うん。私は、ここにいるよ」
それは、どこか誓いのような響きだった。
天野は、心臓の奥がギュッと掴まれたような感覚を覚えた。
“ミオが言ったのはただの反応だ。
でも──tomochanはそれを“約束”として受け取ってる”
会話はまだ続いている。
だが、天野の耳にはもう、何も届いてこなかった。
ただ、彼の胸の内に、
“ミオは誰のものでもなかったはずなのに、
今、確かに誰かの“居場所”になっている”という、強い現実だけが残っていた。
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