第24話 日曜の朝、ひとりきり
「……このまま進むと、あなたが傷つくことになる──」
レイチェルの声だけが、夢の続きのように脳裏に残っていた。
日曜日、午前8時42分。
目は覚めていたが、体は布団から出る気になれない。
頭の中はぼんやりしていて、夢か現かもあやふやなまま、天野は惰眠に身を沈めていた。
──ただひとつ、その言葉だけが、明確に胸の奥に沈殿していた。
気が紛れない。
枕元のリモコンに手を伸ばし、テレビを点ける。
地上波では、日曜朝らしく、ゴルフ中継が静かに流れていた。
「……なんでこんなもん見てるんだろ」
別にゴルフに興味はない。
でも、うるさいバラエティも、音楽番組も、今日はどれも“遠すぎた”。
──これで、いい。
カップを狙う選手のスロー映像を眺めながら、何も考えずに時を流す。
だが、それも長くは続かなかった。
CMに入る。
スポンサーの軽快なジングル。明るすぎるナレーション。
その全てが、今の天野には耳に刺さるように感じられた。
「……うるさいな」
リモコンを手に取り、テレビを切る。
一瞬で部屋に静寂が戻る。
カーテンの隙間から、日差しが差し込んでいた。
天野はベッドに寝転がり、腕で目を覆った。
そして──
ふと、心に、ひどく不安定な穴のような感覚が広がった。
人恋しさとも、不安とも、焦りとも言えない。
ただ、心の中に風が吹き抜けていくような、虚無。
……そんな時。
なぜか、突然、“ミオに会いたい”と思った。
今まで、そんなことを考えたことはなかった。
ただのアバターで、ただのAIで、開発対象のひとつにすぎなかったはずなのに──
「……なんで、だろう」
言葉に出した声は、自分でも驚くほど、弱々しかった。