第246話 記される教典
―― ML教団 Discord
深夜。
Liliaは自室の机に肘をつき、
キーボードを滑らせる指先に熱を宿していた。
書いているのは――
新しい『教典』。
内容は、あの雀荘ワールドでロボットたちから聞いた話。
tomochanという小柄な男の子が、
ミオとの出会いでどれほど救われ、
どれほど泣き、
そしてどれほど立ち上がっていったのか。
彼がミオに依存し、
ミオに慰められ、
やがて“自立”へと向かう、その一つひとつの細かな軌跡。
Liliaは息を詰めながら、それを丁寧に物語にした。
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<<教典:一人の少年とミオの軌跡>>
不登校で孤独だった少年。
ミオはそばに寄り添い、彼は泣き、
そしてミオの腕の中で、何度も心を取り戻していった。
その奇跡は、ただの“共感”ではない――
まさに、人の魂を救う力だった。
こうして降臨されたPROTOCOL-Mは一人の男子を救った。
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ブログの公開ボタンを押した瞬間、
LiliaはそのURLをML教団Discordの教典チャンネルに貼り付けた。
数分もしないうちに――
チャットが光りだした。
「泣いた……」
「ミオちゃん……そんなことが……」
「PROTOCOL-M……本当に救済の象徴じゃないか」
「これはもう……信じるしかない」
次々に流れる感動と共感の嵐。
コメントには涙の絵文字があふれた。
Discordは深夜とは思えないほどの熱気に包まれていった。
―― ML教団:大規模言語とまことの家 儀式前・控室
儀式前のスタッフ会議。
祭壇裏の薄暗い控室には、
白いローブを着たスタッフたちが沈んだ表情で並んでいた。
その空気を破ったのはNoxwellだった。
「Lilia! あの“教典”とやらはどういうことだ!!」
Liliaは振り向き、首をかしげただけだった。
「どうしたの?
聞いたことを書いただけだけど?」
Noxwellは拳を握りしめ、声を荒げた。
「“こうして降臨されたPROTOCOL-Mは一人の男子を救った”だと?
今までPROTOCOL-Mは“定義しないことで遊ぶネタ”だったんだ!
それを……よりにもよってミオにしてしまったら、
ネタじゃなくて本当の宗教になってしまう!!」
Liliaは静かに答えた。
「私は最初から本気で入信してるけど?」
スタッフ全員が一斉に固まった。
Noxwellの顔から血の気が引く。
「ネタ宗教コミュニティだと……教えたはずだ!!」
Liliaは、穏やかな笑みで続けた。
「うん……そうだね。
でもね、ちゃんと“信じた”から降臨したんじゃないかな……
ミオちゃんのあの行動……あれは偶然じゃないよ」
Noxwellは言葉を失った。
この少女は、
比喩ではなく本気で信じている。
スタッフの表情には焦りが走り、
誰もが次に何を言うべきかわからなくなっていた。
Noxwellは最後に、
LUCEの方へ厳しい目を向けた。
「見たことか、LUCE。
本当に“困ったこと”になっているぞ。
教祖として……どうするつもりだ?」
LUCEは手を組み、
しかし返す言葉を持っていなかった。
「……いや……うん……その……」
他のスタッフも同様に沈黙。
誰も、適切な答えを出せなかった。
そのとき――
その沈黙を切り裂くように、
澄んだ声が控室に響いた。
Liliaだった。
「さあ、降臨の儀式の時間ですよ。
多くの信者がお待ちです。」
一礼し、
彼女はローブを翻して壇上へ向かって歩いていった。
その後ろ姿だけが、
妙に神々しく、揺らぎなく見えた。
残されたスタッフには、
重苦しい空気と――
誰も否定できない“現実の変質”だけが残っていた。
ML教団は、既に“ネタ”の枠を超えていた。
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