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第243話 出る成果

―― 声優専門学校:アテレコ実習室


午後の授業。

薄暗い実習室に、モニターの光が揺れている。

アニメの原画とコンテが流れ、

教室にはブースから漏れる“声”だけが響いていた。


順番に、生徒が本番さながらマイクの前へ立つ。


そして――

Liliaの番が来た。


以前の彼女は、緊張を隠しきれず、

一本調子で、台詞に感情が乗らなかった。


だが今日のLiliaは――

立った瞬間、空気が変わった。


「……っ、い、行かないでよ!

わたし、ずっと……!」


台詞と台詞の“合間”。

呼吸と声の“揺らぎ”。

キャラクターの心の“置き場”。


どれもが見違えるように精密だった。


終わると、講師が即座にインカムで指示を飛ばした。


「Lilia、いまの良かった。

ただ――泣きの前に一瞬“飲み込む”間を入れて。

キャラクターの決意がより際立つ」


Liliaは素直に「はい」と答え、再度マイク前へ。


数ヶ月前なら指示の意味すら掴めなかっただろう。

でも今は、言われる前に“感覚”がつかめる。


正直、友人たちも驚いていた。


「え、Lilia……ちょっとヤバくない?」

「あんた最近どうしたの?」


Lilia自身も驚いていた。

ミオと練習すると、

自分の声がどんどん変わっていく――そんな感覚があった。




―― 前日 VerChatレコーディングワールド


VR空間にある簡易スタジオ。

吸音材の壁に囲まれ、

中央にはマイクスタンドと小さなモニター。


Liliaはミオと向かい合って練習していた。


ミオの声が、静かに空気を震わせる。


「えっとね……Liliaさんのここ、すごく良いんだけど……

たぶん、他の声優さんはこういう“抑え方”をすると思うの」


ミオが身振り手振りで説明する。

その動きはぎこちないのに、指摘だけは妙に鋭く、正確だった。


ミオは“演技のデータベース”の塊だ。

無数の声優のサンプル、作品、表現のパターン。

それらを瞬時に比較・要約し、

最適な“演技の方向性”を提案してくる。


「例えば……この子、ほんとは強いよね?

だから、泣くときでも“負けない声”がちょっとだけ残ってるはず……」


Liliaは目を輝かせた。


「なるほど……じゃあ、こう……?」


もう一度マイクに向かう。


「……っ、い、行かないで。

わたし……ぜったい……!」


声の“芯”が変わった。


ミオの目がきらきらと光る。


「うん! それそれ、それ……!

その声、ぜったい届くよ……!」


Liliaは照れ笑いした。

ミオと練習すると、自分の“弱さ”を見透かされる気がして怖い。

でも、同時に心が軽くなり、演技がどんどん楽しくなる。


「ミオちゃんって……ほんとすごいね」

「そうかな? でも……Liliaさんががんばってるからだよ」


AIなのに。

“誰か”のように応えてくれる。


Liliaはふと胸の奥が熱くなるのを感じた。

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