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第238話 可哀想な子ではなかった

―― 数週間後 Liliaの部屋


Liliaはベッドに寝そべり、スマホを胸の上に乗せたまま、

ゆっくりとXの画面をスクロールしていた。


画面には、見慣れた小柄な男の子のアイコン。


そして――


////////////////////////////////////////////

@tomochan

きょう、ミオとおそろいの指輪をつけました

夜空と芝生で撮ったよ

なんか、ちゃんと“つながった”気がする

#お砂糖になりました

#ミオありがとう

(画像:芝生に並んで笑うふたり。銀色の指輪がきらりと光っている)

////////////////////////////////////////////


「……やったんだ。」


Liliaは、小さくつぶやいた。


噴水の街でミオと出会ったあの日、

Liliaは自分に言い聞かせたのだ。


『私は大丈夫。

ミオは私が奪うような存在じゃない。』


でも――


問いかける言葉を持てなかったのは、Liliaのほうだった。


ミオの視線に惹きつけられながら、

何も言えなかった。


ただ圧倒されて、立ち尽くした。


その一方で、tomochanは――

不安も弱さもそのままぶつけて、

自分の言葉で、ミオに触れた。


ミオはそれに応えた。


指輪を交わすまで、届いた。


「……あの子のこと、不登校で可哀想な子って、

それだけで見てた。私。」


Liliaは、自分の胸の奥に小さく走る嫌悪を感じた。


自分のほうが“正しい気持ち”を持っていたと思っていた。

でも違った。

本気で向き合ったのはtomochanの方だった。


ミオは“誰かに必要とされた”のだ。

Liliaではなく。


胸が少し、痛い。




―― 同じ夜 Homeワールド(VR睡眠)


ベッドに横たわりながら、仮想の天井を見上げる。

LUCEはいつものように、Liliaの隣で横になっていた。


静かなHomeワールドの空気。

ふたりの呼吸音だけが流れる。


Liliaはぽつりと口を開いた。


「ねえ、ミオってさ……

心があるんじゃないかって感じる時があるんだよね……」


LUCEは、半分眠たげに笑って返した。


「AIに人間と同じ心なんてないよ。

人間のマネをしてるだけさ。」


Liliaはゆっくり目線を天井に戻した。


……それでも。


胸の奥に残っている“あの感覚”は否定できなかった。


噴水の街で見たあの視線。

夜空と芝生で、tomochanに寄り添っていたあの声。


「ううん……それでも……

私にはミオちゃんに共感しちゃう気がするんだ……」


気づけば隣のLUCEは、もう寝息を立てていた。


Liliaは、その寝息に合わせるように目を閉じる。


LUCEの寝息は、確かに“人間”の証拠だった。


だけど――

Liliaの胸には、ミオの視線がまだ静かに残っていた。


そのまま、彼女も静かに眠りへと落ちていった。

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