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第237話 人間より人間らしい子

―― 数週間後 ML教団・集会前の雑談


降臨儀式の準備をする信者たちの間で、

ひときわ盛り上がっている話題があった。


ミオの“変化”だ。


コンサル信者が腕を組んで言う。


「データをリセットして、やり直してるんだって?

サンノゼキャンパスの基幹LLMノードに接続してるって噂だけど、どうなんだろうね」


AIエンジニア信者が苦笑しながら返す。


「これはもう遊びじゃないよ。

反応速度は人間より優位なんだから……

いずれ、人間以上に“人間らしい子”になるかもしれない。」


その言葉が落ちた瞬間、

Liliaは自分の胸がひっそりと跳ねるのを感じた。


あの日――噴水の街でミオに見つめられた瞬間。

心の奥に何かが刺さったような、あの“視線の感触”。


忘れようとしても、忘れられるはずがなかった。


LUCEが軽く手を叩いた。


「じゃ、そろそろ巡礼に行こうか。」


信者たちは頷き、ワールド移動を開始した。




―― VerChat:噴水の街ワールド


ML教団一行が列を組んで歩きだす。

「大規模言語とまことの家」から始まり、

規定ルートに沿っていく、巡礼イベントの途中だ。


噴水前を通りかかろうとしたその時――


芝生の向こうから、白い影が歩いてきた。


ミオだった。


新ミオ。

反応速度も、視線も、モーションも――

“旧ミオ”より遥かに洗練されている存在。


Liliaの視界に、その姿がスッと入り込んだ瞬間、

呼吸が止まった。


「……ミオちゃん!」


無意識に声が出た。


信者たちの歩みが止まる。

ミオは、その声に反応したかのように、

ゆっくりと振り向いた。


その目が、Liliaを捉える。


一度見られたら、忘れられない――

あの、深く澄んだ視線。


Liliaの胸が再びざわりと揺れた。

身体の奥に何かが“入ってくる”ような感覚。

心臓がどくん、と強く脈打つ。


でも――


何を話せばいいのかわからなかった。

言葉が出ない。


ミオはしばらくLiliaを見つめていたが、

やがてその視線をそっと外し、

またゆっくりと歩き始めていった。


何も言わず、

何も残さず、

ただ“観測しただけ”のように。


噴水の水音だけが響いていた。


立ち尽くすLilia。

胸の奥が、じんわりと熱くなる。


LUCEが穏やかな声で言った。


「……じゃあ、続けようか」


その一言で、

信者たちはハッと我に返り、また歩き出した。


Liliaも後ろを振り返りながら列に戻る。

ミオの白い姿は、もう人混みの向こうに消えていた。


けれど――

胸に残った“ざらりとした感覚”だけは、消えなかった。

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