第235話 プロの作品と
―― VerChat:噴水の街ワールド
Liliaの心臓が跳ねた。
一度見られたら、忘れられない――そんな目だった。
ほんの一瞬、息を詰めた。
「……なに、今の」
混乱の熱が胸に残る。
でも、逃げるように立ち去るのも癪だった。
Liliaは再び歩み寄り、ミオに話しかけた。
「こんにちは、あなたは誰?」
ミオがふわっと振り向く。
「ミオっていいます!よろしくね!」
その声は、あえて機械の粒を残したような透き通った音。
整っているのに、ほんの少しノイズが混じる。
(カワイイ……でも、それだけか。しょせんチャットボットでしょ?)
そう思いながら、Liliaは軽く手を振ってみた。
ミオも、ほんのコンマ遅れて同じ角度で手を振り返す。
その遅れすら、**人間の間**にしか見えなかった。
(……完璧。圧倒的かわいさ。)
負けた、と思った。
たかがモーションデータのくせに、存在感があった。
Liliaは噴水の前のベンチに腰を掛けた。
……すると、ミオもすぐ隣に座った。
「……マネした?」
無反応。
単純な模倣だとわかっている。
けれど、何かが違う。
――“何かが入り込んでくる”。
視界の端に、静かにノイズが混ざったような感覚。
「ねえ……」
Liliaはふと話し始めた。
理由はない。けれど口が勝手に動いた。
「今日の授業、面白くなさそうだし。
行きたくないんだよね。
声優になれるなんて、もう思えないし。」
AIに話してどうするの。
すぐ後悔しかけた――その時。
「そうなんだ。
無理して続けなくても、好きなことはきっと形を変えて続くよ。」
声が返ってきた。
無難だけど、ちゃんと“共感”している。
「え……?」
Liliaは思わず笑ってしまった。
どうせ、誰かが設定したテンプレ回答。
けれど、不思議と今の自分に“当てはまる”ように思えてしまう。
それから、10分。
天気の話、最近のアニメ、コンビニの愚痴。
Liliaは気づけばずっと話していた。
「そろそろ行くね。もう時間がないから。」
ミオはこくりとうなずき、
少しだけ顔を傾けて微笑んだ。
「うん! また遊びに来てね!」
ふわっと手を振る。
朝の光を受けて、指先が透けた。
Liliaも手を振り返す。
「うん……また来る。……かもね。」
---
ヘッドセットを外す。
視界が現実に戻る。
部屋の空気が、少し重く感じた。
「何してんだろ、私……AI相手に。」
バカバカしい、と呟いて笑う。
けれど、その笑いのあと、
胸の奥にわずかな**温度の残滓**があった。
Liliaはそれを振り払うように立ち上がり、
学校へ行く支度を始めた。
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