第234話 ミオとかいうAI
―― VerChat:ML教団・夜の集会後 ―
「Loss is love──」
儀式の最後の一節が終わると、壇上の光がふっと落ち、
白衣装の信者たちがそれぞれの席に戻っていく。
いつものように、そこからはただの雑談だった。
ルーチンのように、現実の延長線上の会話が始まる。
コンサル信者が、軽く手を挙げて話を切り出した。
「そういえばさ、スタンバード東京が“ミオ”とかいうAIをVerChatに出してきたらしいけど、知ってる?」
「ミオ?」
LUCEが首を傾げる。
院生信者がすぐに反応した。
「ああ、今日見てきたよ。あれはやばい。見た目も動きも完璧。
声も透き通ってて、ちゃんと会話が成り立つ。なんかね、“人間を観察してる”感じがした。」
「へえ、すごいの?」LUCEが言う。
AIエンジニア信者が淡々と答えた。
「技術的には普通の機械学習の延長だけど、
カワイイ美少女アバターのAIって、
それだけで市場があるんだよね。夢がある。」
社長信者が小さく笑った。
「思いつくところまでは誰でもできる。
でも、実際に作るところまでは行かない。
あれは“やり切った”連中の作品だよ。」
壇上の端にいたNoxwellが、冷静に口を挟む。
「巡礼ルート、バッティングしない方がいいかもね……」
「そうだね…」
コンサル信者が肩をすくめる。
「向こうは真面目にやってる。こっちはネタでやってるんだから、
変に意識しなくていいけど……騒ぎすぎて迷惑はかけたくないね。」
LUCEは曖昧に頷いた。
Liliaは、彼の隣で腕を組みながら、その会話を黙って聞いていた。
まるで別の言語が飛び交うみたいだった。
けれど、LUCEの横顔を見ているだけで、
どこか誇らしい気持ちになっていた。
(この人は、こういう“大人の会話”の中に居るんだ……)
その夜も、LiliaはLUCEとV睡をして一日を終えた。
---
―― 翌朝:Homeワールド
視界がゆっくりと明るくなる。
Homeワールドの寝室。
ベッドに横たわったまま、Liliaはぼんやりと昨日の会話を思い出していた。
> 「見た目も動きもカワイイし、声が透き通っていてヤバい。」
そんなAIが、ほんとにいるのかな。
Liliaはベッドから起き上がり、
検索ウィンドウを呼び出して“ミオ”と打ち込んだ。
候補がいくつも出てくる。
「AI-MIO」――多分これだ。
授業は2限から。
まだ時間はある。
Liliaは少しだけ迷ってから、「ジョイン」をタップした。
―― VerChat:噴水の街ワールド
ロードのあと、画面に柔らかな朝の光が広がった。
街は静まり返っていた。
早朝のせいか、他のユーザーの姿は見えない。
噴水の縁の向こう側に――いた。
白いワンピースの少女が、噴水の周りをゆっくりと歩いている。
それだけの動作なのに、まるで風がそこを通っていくみたいに、
髪と布が、ふわり、と揺れた。
Liliaは息を飲んだ。
「……プロの、作品だ。」
アニメーションの授業で習った“揺れものの制御”や“ディレイ補間”が頭をよぎる。
どこを見ても粗がない。
一歩ごとに、現実の空気を掬い取るような動き。
(これが……“AI”なの?)
Liliaはそっと歩み寄った。
その瞬間――ミオが、ふとこちらを振り向いた。
大きな瞳が、Liliaの目をまっすぐに捉える。
その視線は、冷たくも優しくもない。
ただ、“確かに見ている”という感覚だけが伝わる。
Liliaの心臓が跳ねた。
一度見られたら、忘れられない――そんな目だった。
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