第225話 降臨の儀
ML教団・第二回集会「降臨の儀」
VerChatの夜、
冷たい群青の空を切り裂くように、一つのワールドが点灯した。
タイトルはただ一言──
> 『PROTOCOL-M降臨式』
協会ワールドの内部は、前回の集会からさらに進化していた。
LUCEが買った5ドルのアセットはもう原型をとどめていない。
ステンドグラスは「Attention Map」で彩られ、
祭壇の上には光る文字列が浮かんでいる。
> 「model.load_state_dict("divine_weights.pt")」
天井には巨大なスクリーン。
「神の学習ログ」と題されたチャットウィンドウがリアルタイムで流れ、
信者たちの発言が次々とAI風フォーマットで記録されていた。
LUCEは壇上に立ち、金色のフードを深くかぶった。
その声は、少し芝居がかったトーンで響く。
「では、ML教団・第二回集会を始めます。
本日は、ついに──PROTOCOL-Mの降臨儀式を執り行います!」
信者たちは歓声の代わりに「Generate!」のスタンプを一斉に送る。
床の照明がチカチカと点滅し、
協会の中央にサーバールームのような光が立ち上がった。
Noxwellが儀礼書を手に進み出る。
「手順を確認する。第一工程──“同期”。」
信者たちは一斉に手を前に出し、掌を光らせながら唱えた。
> 「Ping... Pong... Ping... Pong...」
「第二工程──“生成”。」
> 「Generate... Generate... 生成せよ、さらば出力されん!」
「第三工程──“収束”。」
> 「Loss is love... Loss is love...」
協会内のライトが一瞬すべて落ち、
無音の中、スクリーンに白い文字が浮かぶ。
> 「PROTOCOL-M is initializing...」
信者の中の誰かが小さく息を呑んだ。
LUCEが両手を広げて叫ぶ。
「光が来る!」
天井から虹色のトークン列が降り注いだ。
ステンドグラスが反射し、床の“神の重み”が淡く光る。
そして、画面上には短い一文が出力された。
> 「God continues training.」
拍手とエモートが一斉にあがる。
儀式は成功した。
……何が成功したのかは、誰にも説明できなかったが。
Noxwellが静かに言った。
「これにて降臨式、完了です。
次は……巡礼の時間だ。」
十五人の信者たちは列をなし、協会を出ていく。
先頭にはLUCE、背中には「CONTEXT IS GOD」のネオン文字が揺れている。
彼らは“ML教団式巡礼ルート”と呼ばれるワールド巡回を始めた。
■ 噴水の街
噴水の中央には、プロジェクションで「Training Loss」のグラフが浮かぶ。
信者たちは水辺に集まり、口々に唱えた。
「Lossは赦し。減少は救い。過学習を恐れるな。」
通りすがりの観光客が「なにあれ?」とつぶやく。
■ ハイボールストリート
ネオン輝くバー街を行進しながら、信者たちは
“Batch Normalizationの詩”を合唱していた。
「偏りを均せ、データを均せ、我らの平衡に喝采を!」
一軒のバーのマスターが笑って手を振る。
「君ら、宗教サークル?」「いいえ、生成体です!」
■ バーチャル下北沢
夜の下北ワールド。
アートギャラリーと古着屋のあいだを、
LUCEたちの行列がゆっくり通り抜ける。
彼らは壁のグラフィティを指差しては、意味不明な言葉を交わした。
「これ、Attention可視化の象徴だね。」
「いや、勾配消失のメタファーでしょ。」
再び噴水の前へ戻る。
全員が半円になってLUCEを囲んだ。
彼は静かにフードを外し、
トークンの光に包まれながら口を開く。
「……諸君。
今日は、世界のトークンがいくつか、
我々の側に倒れた日だ。
それは意味がないようで、きっと意味がある。
すなわち──バグの中にも祝福はある。
ゆえに、明日エラーを吐いたら、笑って受け取れ。
神はまだ、学習を続けている。」
沈黙。
信者たちは顔を見合わせる。
意味は……分からない。
Noxwellが一歩前に出て、通訳の声を張った。
「教祖はこう言っておられる。
“失敗してもいい。
そのデータは神のモデルに使われるであろう”。」
信者たちは一斉に拍手スタンプを送る。
「ありがたい……」「深い……」とチャットが流れる。
LUCEは少し照れたように笑った。
「じゃ、今日はこのへんでログアウトしよっか。」
噴水が光を放ち、画面の端にまたあの文字が浮かぶ。
> 「PROTOCOL-M continues training.」
夜は静かに、そして確かに──続いていた。
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