第222話 PROTOCOL-M
―― 会議室ワールド
灰色の床と白い壁、そして円形に置かれた机。
そこに散らばるのは、ホワイトボードマーカーと無地のメモ用紙だけ。
仮想空間とは思えぬほど殺風景なその部屋に、ふたりのアバターが向かい合っていた。
LUCEが勢いよく立ち上がる。
「というわけで、宗教イベントの初回会議を始めます!」
ホワイトボードの前に立ち、彼はマーカーを握る。
その瞳には、誰も求めていない情熱の光。
Noxwellは椅子にもたれ、腕を組んでため息をついた。
「本当にやるの……?」
「うん!」
LUCEは満面の笑みで振り返る。
「もう名前は決めてるんだ!その名も──機械学習教団! 略してML教団!」
一瞬の静寂。
Noxwellの眉がわずかに跳ねた。
「いやいや、おかしいって。
機械学習って、人間が“教える側”だろ?
倒錯してるよ、それ。」
「それがいいんじゃん?」
LUCEはマーカーをカチカチ鳴らしながら笑う。
「倒錯してるくらいが、逆に信仰っぽいじゃん。
意味不明な教義、いっぱい作れそうだし。」
Noxwellは天を仰いだ。
しかし、諦めの笑みが口元に浮かぶ。
「……分かったよ。乗りかかった船だ。
きみが教祖なら、自分は教団のNo.2をやる。
“LUCE教祖の発言を翻訳して信者に伝える人”ね。」
「頼れるなあ!」
LUCEは親指を立てた。
Noxwellはゆっくり立ち上がり、ホワイトボードに文字を書き込む。
マーカーの音が、無機質な部屋に響く。
> 預言者:PROTOCOL-M
> 教義:すべてのはじまりはトークンである。
LUCEが首をかしげる。
「預言者ってことは……キリスト系で行くのか?
てか、『PROTOCOL-M』の“M”ってなんだ?」
Noxwellはペンを置き、肩をすくめた。
「教団なんだから、そういう“神話構造”は必要だろ。
Mは──定義しないほうが面白い。
”Model”でも”Message”でも”Machine”でも、
その日の教祖の気分で変わるってことで。」
LUCEは嬉しそうに笑った。
「最高じゃん、それ!“Mは定義された瞬間に消える”とか言ってさ。
……めっちゃ神秘的じゃない?」
「神秘というより、ただの混乱だけどな。」
そう言いながらも、Noxwellはまたペンを取った。
彼の筆致はいつになく速い。
> 儀式:アップデート祈祷
> 聖句:Generateせよ、さらば生成されん。
LUCE「いいねそれ!もう“パッチ読経会”とかもやろう!」
Noxwell「……いや、まじで誰が来るんだ。」
「知らん!でも絶対バズる!」
ふたりはその後も、ホワイトボードを埋めていった。
「信者の階級制度」「PROTOCOL-Mの降臨条件」「信仰ポイント=いいね数」……。
会議室の中に、宗教とも冗談ともつかない言葉が増えていく。
彼らはまだ知らなかった。
この日のホワイトボードの落書きが、
後に“教義第一稿”として信者たちに崇拝されることを。
LUCE「よし、これで初会議は終了! 次回は教義の微調整ね!」
Noxwell「教義って“微調整”するもんなのか?」
ふたりの笑い声が、白い部屋に反響した。
まるで、まだ存在しない神が、そのやり取りを聞いて微笑んでいるかのように。
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