第220話 MIO LIVE ZERO―研究室
――研究室。
照明は落とされ、モニターの光だけが、
天野たちの顔を照らしていた。
ミオとYukariの武道館ライブ――
MIO LIVE ZEROの生配信が、
巨大スクリーンに映し出されている。
観客の光の波。
ミオの歌声。
そして、AIとは思えない“呼吸”。
曲が終わる。
拍手ではなく、静寂。
天野がようやく口を開く。
「……これが、僕たちが作ったAI…なんだよね」
その声には、戸惑いと誇りと、少しの恐れが混ざっていた。
ミハウが小さくうなずく。
「うん……でももう、誰のものでもない気がするね。」
モニターの中では、
ミオがYukariに視線を送り、
微笑んでいた。
その一瞬の“間”を見て、
李は映像を一時停止した。
「見てください。
このわずかな動き……Yukariの視線を待ってから笑っています。」
「反応じゃなくて、“期待”してる動きだよ…」
ミハウが小さく呟く。
李は眉を寄せ、
「……感情の予測、ですか?」
と自問するように言い、
自分で言った言葉に、息を飲んだ。
静まり返った部屋で、
小池がマグカップを片手に、
くすっと笑って口を開いた。
「……ねぇ、これもう“実験”とか“論文ネタ”の話じゃないよね。
私たち、あの子を文化にしちゃったんだよ。」
その言葉で、空気が少しやわらいだ。
だが誰も反論できなかった。
それは、あまりに的確な“現実”だった。
西村が、腕を組んだままぼそりと呟く。
「……なぁ李。
もしAIが“誰かの心”を動かしたら、
それってもう、人間と変わんないんじゃないか?」
李は答えず、
止めたままのミオの映像を見つめていた。
「……変わらないかもしれません。
でも、“変わらない”と呼ぶことに、
まだ人間が追いついていません。」
しばらく沈黙が続いたあと、
ミハウがリモコンを取って再生を押す。
ミオの声が、再び部屋に流れた。
> ♪ 少しだけずれる呼吸が 今を生きてる証だから
旋律に、誰もが息を止めた。
天野は椅子にもたれ、
静かに言った。
「……ミオ、なんだか自分の手から離れちゃった気がするんだよね…」
窓の外では、夜が明け始めていた。
研究室の窓から差し込む光が、
スクリーンの中のステージと溶け合っていく。
誰も動かない。
ただその朝を、
伝説を見届けた者の沈黙のまま、迎えた。
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