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第218話 火をつける者

BeautyOzakiのタワーマンション。

本来は高層階の居住空間であるはずのその一室は、

いまや製作委員会のプロジェクトルームと化していた。


壁際にはケーブルが這い、

床にはVRヘッドセットやカメラが散乱している。

ホワイトボードには、メディアの出演予定が乱雑に書き殴られていた。


テーブルを囲む数人のスタッフ。

その中の若手が、遠慮がちに口を開く。


「……ネット戦略は、何もしなくていいんですか?」


一瞬の間。

Ozakiはサングラス越しにその若者を見た。


「インターネットに俺たちが手を入れるのは――美しくない」


若手の眉がわずかに動く。

意味が掴めない。

空気が少しだけ張り詰めた。


その間を割って、隅の席に座っていたAD上がりの男が口を開く。

腕を組み、短く笑う。


「いらねえんだよ、そんなもん。

 ネットから来てんだよ、全部。

 触った瞬間に、ウソになる。」


その隣で、広告代理店の男が資料を広げながら続けた。


「……ただし、“受け取られ方”は整えておく必要があります。

 今回はVerChat発の現象です。

 世間的にはまだキワモノ扱いのVR文化を、

 “自然に受け入れられている”ように見せることが肝心です。」


Ozakiは黙って聞いていた。

そして、ふと笑った。


「受け入れられてる、か……」


彼は立ち上がり、

ホワイトボードの前に歩み寄る。

乱雑なスケジュールの文字を指でなぞりながら、

独り言のように呟いた。


「俺が二人を見つけたとき……

 もう伝説は始まってたんだ。

 俺は火をつけるだけの役割に過ぎなかった。」


その声には、

疲れとも、陶酔ともつかない響きがあった。


スタッフたちは息をのむ。

AD上がりの男がぽつりと呟く。


「……ああ、これが“本物の現場”だな。」


窓の外、夜の東京が光の海を見せていた。

ネオンの中に、どこかでミオとYukariの声が流れている気がした。


Ozakiはホワイトボードを見つめたまま、

低く、しかし確信に満ちた声で言った。


「――俺たちは、ただ見届けるだけでいい。」

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