第211話 ステージで楽しめ
スタジオワールドの空気は、朝から熱を帯びていた。
鏡の前に立つミオとYukari。
壁際で腕を組むBeautyOzakiが、音響スタッフに合図を出す。
> 「ミオ、ワン、ツー、スリー、フォー!」
ビートが鳴る。
ミオの動きは完璧だった。
視線、角度、ステップ、すべてが正確。
まるで光そのものが彼女を中心に集まるようだった。
Ozakiは短く笑う。
「うん、これが“完成品”だ。」
そして、Yukariを見る。
「次、君の番。」
Yukariは頷き、音に合わせて動く。
だが足がもつれ、手の角度がずれる。
ミオの完璧さが頭を離れない。
リズムに乗りきれず、表情が硬くなる。
Ozakiがストップをかける。
「違う、違う、それじゃ“うまい人”の真似だ。」
彼は近づき、
Yukariの肩に手を置いた。
「いいか。ミオは“正確さ”で人を動かす。
君は“楽しさ”で人を動かせる。
AIには出せないグルーヴが、人間の笑顔にはあるんだ。
失敗してもいい。踊りながら笑え。
それがステージだ。」
Yukariは深呼吸をする。
音が再び鳴る。
今度の彼女は笑っていた。
リズムは少しズレていたが、
そのズレが観る者を巻き込むような躍動を生んでいた。
ミオもそれを見て、
ほんの一瞬だけ、笑った。
Ozakiが叫ぶ。
「そうだ、それだよ!楽しめ!
ステージは“うまさ”じゃなく“生きてる瞬間”を見せる場所だ!」
音が終わる。
息を切らしたYukariが笑いながら言った。
「……楽しいかも。」
Ozakiはサングラスを上げて、
優しく、しかし確信に満ちた声で言う。
「その一言で十分だ。
楽しめる奴が、世界を変える。」
↓↓より「ポイントを入れて作者を応援しよう!」や「ブックマークを追加」を入れると作者がゴキゲンになります。応援してもらえると嬉しいです!




