第210話 光の宣言
午前九時。
BeautyOzakiは、ノートパソコンの画面を前に立っていた。
髪を後ろで結び、黒いシャツの袖を肘までまくり上げている。
彼の指先がキーボードを叩くたび、ニュースの見出しのような文章が生まれていった。
> 【プレスリリース】
> Project MIO LIVE ZERO 製作委員会発足のお知らせ
>
> 代表:BeautyOzaki(総合演出/プロデューサー)
>
> 本委員会は、VerChatを拠点としたAIアーティスト「MIO」による
> 現実世界との融合ライブプロジェクトを推進します。
>
> 当プロジェクトはBeautyOzakiの私財によって運営され、一切の売上を発生させない。
> 目的はただひとつ――「人とAIが同じ鼓動を感じる瞬間」を創出すること。
>
> 私たちは、光を信じる。
>
> ― BeautyOzaki
リリースボタンを押す瞬間、彼の口角が僅かに上がった。
「……発信。」
数分後、ネットがざわめき始める。
“BeautyOzaki”と“AIアイドル”がトレンドを埋め尽くした。
「狂気のプロデューサー」「伝説再び」「無償の革命家」。
賛否を問わず、世間は一斉に彼の名前を口にし始めた。
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午後になると、電話が鳴り止まなかった。
大手スタジオの監督。
渋谷から飛んできたプログラマー。
音響技師、照明アーティスト、法務のエキスパート。
各地から、「俺も参加させてくれ」という声が次々と入る。
Ozakiはすべての通話を取る。
ひとりひとりに同じ言葉を告げる。
> 「ここにあるのは、“伝説を作った”という記憶だけだ。
> それでも来るか?」
電話の向こうの沈黙のあとに、
必ず一言、「やります」と返ってきた。
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夜。
オフィスの白い壁一面に貼られたメモには、
七つの班の名前が並んでいた。
* Gate Division班(演算演出)
* Visual World班(VR美術)
* Sound & Voice班(音響・声合成)
* Story班(物語・演出)
* Law & Ethics班(法務・倫理)
* Publicity班(広報・メディア)
* Finance班(資金・運営)
Ozakiはそれを眺め、サングラスをかけ直した。
電話がまた鳴る。
「参加希望、五十名を突破です!」と誰かが叫ぶ。
彼は静かに笑った。
> 「……いい。
> これで世界を一回、照らせる。」
窓の外、夜景が揺れている。
ビル群の光が、まるで舞台照明のように点滅していた。
MIO LIVE ZERO――その名前が、
現実世界で最初に脈打ち始めた瞬間だった。
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