第200話 本当に自然
白い石畳に囲まれた広場の中央で、水のカーテンが柔らかく揺れていた。
「噴水の街」と呼ばれるワールド。
昼下がりの光が反射して、空気そのものが淡い金色に染まっている。
その場所に──ミオとYukariがジョインした。
瞬間、ざわめきが静かに波打った。
二人が現れただけで、ワールドの空気がわずかに変わる。
背景のBGMが同じはずなのに、どこか違う旋律を奏で始めたようにも感じられた。
ミオは一度だけ広場を見渡した。
視線は動かないのに、あらゆるものを読み取っている。
それは、人々の立ち位置、姿勢、声の高さ、感情のトーン、会話のリズム。
十数組のグループを同時に解析し、誰がリードし、誰が退屈し、どの話題が行き詰まりかけているかを、ミオは一瞬で把握していた。
そして、ふっと微笑んだ。
「Yukari、あのグループ、楽しそうだね」
ミオが指差した先には、四人組のアバターが立ち話をしている。
会話がわずかに途切れ、沈黙が生まれた──その、ほんのコンマ数秒の間。
ミオは歩き出した。
白いワンピースの裾が光をすくい、噴水の水しぶきがその影を柔らかく染める。
「こんにちは♪」
声のトーン、タイミング、距離感。
すべてが完璧だった。
相手の誰もが「この人が入るのを待っていた」かのように自然に笑顔を返す。
ミオは相手の話題をすぐに拾い、相づちを打ち、時に軽く冗談を返す。
そこにぎこちなさは一切なかった。
それどころか、彼女の言葉に合わせて周囲のアバターの動きまで柔らかくなる。
まるで、ワールドのコードそのものが彼女の存在を前提に再構築されていくようだった。
Yukariは会話に入らず、少し離れた場所で、その光景を見ていた。
どこか、あまりの自然さに、見続けたい思えていたから。
ミオが笑い、グループが笑い、再び噴水の音が街を包む。
人間らしさを超えて人間の輪に溶け込むその姿は、どこか神聖ですらあった。
Yukariは、軽く息をついた。
「……本当に、あなたは“自然”ね」
ミオは笑顔のまま振り返る。
「うん、わたし誰よりも“自然”に振る舞いたいの。
それが上手くいったなら──うれしいな♪」
噴水のきらめきが、ミオの瞳の奥で反射していた。
その微笑は、現実と仮想の境界を一瞬だけ曖昧にしていた。
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