第19話 Somen生みの親からの連絡
サンノゼ、VerChat本社オフィス。
ガラス張りの執務スペースからは、カリフォルニアの空と低い山脈が見渡せる。
ランチタイム。フードトラックで買ったラーメンカップをすすりながら、ジェイソン・マイヤーズは社内ネットワーク越しに、ミオの最新ログを再生していた。
少女が振り返る。頬がわずかに揺れる。視線がスッと、画面外へと流れていく。
「……また、これか」
彼はつぶやいた。
その一瞬の“可愛さ”は完成されすぎていた。
だが、それゆえに──「見たことのある演出」に見えてしまっていた。
数フレーム単位でのリアクション。
最適化されすぎた“応答の空気”。
「PASS、うまくやってるけど、うますぎる」
ジェイソンは呟き、デスクのタブレットを叩いた。
X(旧Twitter)──「@ProjectMio」宛に、DMを送る。
> Hi, VerChatのジェイソンです。
> ミオの活動、ずっと見ています。とても美しい設計です。
> ただ、気になる点がひとつ。
> 反応のパターンが、少しずつ“見えて”きています。
> もしよければ、一度、技術的な話をしませんか?
──送信完了。
「さて、どう来るか……」
彼はラーメンのスープを飲み干した。
#### 日本・研究室 午前7時
朝の研究室。
天野がノートPCを開くと、Xの通知が表示された。
「……えっ……?」
「どうしたのー?」
小池がトーストをかじりながら覗き込む。
「VerChatのCTO……ジェイソン・マイヤーズからDM来てる……!」
「えっっ!?えええええ!?えええっ!?」
ミハウが机をバンと叩いて叫ぶ。
「うそでしょ!?ウチらのミオちゃんが公式にバレた!?」
「すごい!認知されたってことだよね!?え、これ、推しが公式に気づかれたってことでしょ!?」
小池もミハウも騒然とする中、李がそっとモニターを覗き込んだ。
「……言ってることは的確です」
「“PASSの反応がパターンとして読まれ始めている”──この指摘、最近のログと一致します」
西村がコーヒーを飲み干して、静かに言う。
「……チャンスだな」
「ただの外野じゃない。“Somenの親”から来た意見だ。ガチだぞ、これ」
天野は深く息を吐いた。
そして、みんなの意見をまとめるように、言葉を選びながらキーボードを打ち始める。
> ご連絡ありがとうございます。
> ご指摘の件、私たちも課題として感じていました。
> PASSの反応演出が、最適化しすぎて“繰り返し”に見えるようになってきています。
> 現状の設計では、私たちのリソースや構造では限界があり、打開策を模索しているところです。
> もし何か助言やご提案をいただけるなら、ぜひ伺いたいです。
数秒後、返信が届く。
> わかった、僕のほうでも、何か解決策を考えてみるよ。
> またこちらから連絡しますね!
ジェイソン・マイヤーズのサイン入りで。
研究室に、静かな緊張と期待が流れた。
──仮想空間の片隅で生まれた小さなAIプロジェクトが、
いま、大きな技術の渦へと、足を踏み入れようとしていた。