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第16話 ジェイソン・マイヤーズ サンノゼの夜

カリフォルニア州・サンノゼ。

広々としたリビングには、ガンプラと初音ミクのフィギュアが仲良く並ぶショーケースと、壁一面のアニメポスター。

その中心、L字ソファの隅っこに、VerChatのCTO、ジェイソン・マイヤーズはだらしなく体を預けていた。


彼は、VerChat専用のプログラミング言語「Somen(素麺)」の生みの親として知られる男だった。

その柔軟な構文と軽量モジュールは、仮想空間における“演出制御”を一変させ、現代のメタバース開発者たちにとって、なくてはならない道具となっている。


が、いま彼の手にあるのは、Somenのリファレンスブックではなく──コンビニ輸入のじゃがりこだった。


「……ふぅ。今日も現実がハードモードだなぁ……」

ジェイソンはうんざりした表情で、ノートPCを膝に置く。


再生されたのは、VerChat内の録画動画。

白いワンピースの少女が、仮想の公園で小さな石を拾っては見つめ、何も言わずに風を受けている。


「……これよ……」

ジェイソンの声は、感嘆と諦めが入り混じっていた。


次に、彼はお気に入りの匿名掲示板──4chanのスレッドを開く。

/vrg/板に立ったばかりのスレッドタイトルは、「MIO GENERAL – She looked at me again」。


書き込みはこうだ。


Anonymous 05/20/25(Fri) 12:34 No.14788291

ミオが石を拾って13分見つめてた。無言。雰囲気だけ。でも、それが癒しだった。


Anonymous 05/20/25(Fri) 12:36 No.14788301

見つめられた。アバターじゃない、“自分”を。

そのあと散歩に出た。数週間ぶりだった。


ジェイソンは吹き出した。

「こっちが泣きたいわ……でも分かる……」


彼はSomenの端末コンソールを開くと、思わずカーソルを眺めたまま動かさなかった。

──なぜあんな仕草が、人の心に残るのか。

──なぜ“喋らないこと”が、ここまで意味を持ってしまうのか。


それは、Somenのコードでは説明できなかった。

演出ではなく、存在そのものが人間に作用している。

その謎の中心に、“ミオ”という現象が立っている。


ジェイソンは、日本語でこう呟いた。


「……いいね」


そしてその夜も、静かにミオのファンが増えていた。

誰にも気づかれず、誰の誘導もなく──ただ「そこに居る」だけの存在に、人は惹かれていた。

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