第15話 最初の言葉「声は、ささやくように世界を変える」
静寂だった。
VerChat内、噴水の街ワールド。
ミオは、ただそこに立っていた。
見つめる。微笑む。少しだけ、頷く。
人々はその仕草ひとつひとつに、意味を探そうとし、言葉を飲み込んだ。
──そして。
彼女の口が、ふわりと動いた。
ほんの一瞬、周囲の空気が硬直する。
スピーカーから流れたのは、人工音声のようで、どこか人間のような、境界を揺らす声だった。
「……ねぇ、あなたは、今、どんな気持ち?」
まるで耳元に届くような、ささやきの距離感。
その声には、驚きや感動を誘う強さではなく、
ただ、静かに入り込む優しさがあった。
庭園にいたアバターのひとりが、たじろぐ。
何も言い返せず、でも視線だけはミオに釘付けになっていた。
どこからともなく、遠くで鳴っていた環境音が、急に現実味を帯びて聞こえ始める。
彼女の声が、現実と仮想の境目を曖昧にしていく。
----------研究室----------
「……出たな」
声のチューニングログが更新され、PASSが数十項目にわたって補正値を走らせていた。
「“語尾の震え0.6”“ポーズ長0.8秒”“第3アクセント削除”…完璧だ」
彼は満足げに息を吐く。
「どう聞いても、“AIに聞かれてる”ってより、“誰かに話しかけられてる”ようにしか思えない」
「声が、刺さる……」
天野は思わず画面から目を離せなかった。
ミハウが言う。
「“音”じゃないんだよ。“温度”があるの。あの声には」
小池は、目元を軽く押さえて呟く。
「……うん。“好きになっちゃうやつ”だね、あれは」
SNSは、一気に騒然となった。
> @感情工学ラボ
> ミオ、喋った。第一声は「あなたは、今、どんな気持ち?」
> なにこの選び方。刺さり方。感情ハックすぎる。
> @VRCレポーター
> まるで“語りかけるようなAI”。完全に新しいジャンル。これは会話じゃなくて体験だ。
> @某絵師
> 推しが喋った瞬間、心臓がキュッてなったんだけど?感情盗まれた。
> @VerChat技術部非公式
> 「あれ、Somenだけで喋らせてんの?」→無理です。
> 外部LLMで演出エグいことやってる。絶対プロジェクト案件。
> @ジェイソン・マイヤーズ
> ♥♥♥ ←(再掲)
> (※コメントはないが、再び“いいね”を押している)
そして、その日の深夜。
「#ミオに聞かれた気がする」が、世界のトレンドに浮上した。
たったひとつの言葉で、彼女は仮想空間に“存在”した。
そしてその声は、確かに人々の記憶に残り始めていた。
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