第14話 公開デビュー「ただ、歩くだけで」
仮想空間に、白いワンピースの少女が現れる。
VerChatにデフォルトで設定されている、噴水の街ワールド。
その髪は薄緑に揺れ、瞳はどこか夢を見ているように、光を受けて煌めいている。
一歩。
ただ、一歩踏み出しただけで。
周囲の視線が、ふっと止まる。
話していたユーザーが、一瞬だけ言葉を止め、首をかしげる。
また一歩。
スカートの裾が、風のない空間に“風”を起こす。
髪の揺れ、体重移動、微かな視線の振り方──
そのすべてが、偶然に見えるように計算された、“奇跡の自然さ”。
天野が、息を呑んで呟いた。
「……圧倒してるじゃん……なんていうか……
かわいい、とも、エロい…とも違う……?」
ミハウが、満面の笑みで答える。
「ハイ!ナマメカシイを目指しました!」
「違うの!」
小池がすかさず声を上げる。
「圧倒的かわいさなの!」
そう。
歩くだけで、空気が変わる。
一歩進むごとに、周囲の温度がじわりと動く。
小池とミハウのタッグで作られたミオの動きは、
人の“見る”という感情そのものを、足元から引き寄せていくようだった。
誰もが、彼女を見ずにはいられない。
視界の端に入った瞬間に“惹かれてしまう”、そんな“重力”。
それは、ただのアバターではなかった。
社会共存AI〈ミオ〉の、堂々たるデビューだった。
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