第12話 衝突する理想、交差する奇跡
深夜、研究室。
スピーカーから、ミオのテストログが繰り返し再生されていた。
──わずかに内股のステップ。
──スカートの揺れが、0.2秒遅れて追いかける。
──そして、ふと立ち止まり、こちらを見上げてくる。
その瞬間、空気が変わった。
「……うわ」
天野が、息を漏らした。
「今の、なんか……ちょっと怖いくらい、刺さる……」
「でしょ!?でしょ!?」
ミハウが両手を叩いて叫ぶ。
「ナマメカシイを作りました! この“間”と“揺れ”の残像、最高です!」
「違うの!!」
すかさず、小池が立ち上がった。
「圧倒的かわいさなの!
肩の位置、ちょっとだけ下げてるの!それで“守りたくなる感”が出るの!」
「でもこの腰のラインは僕の——」
「それがやりすぎだって言ってるのよ!エロく見えるじゃん!
ミオはそういうのじゃなくて、“見てたら罪悪感が湧く可愛さ”なの!」
「いやでも、“ギリギリまで行ったほうが記憶に残る”って心理統計で——」
「知ってるけど違うの!“バレないギリギリ”が可愛いの!!」
──ふたりの声が研究室に響き渡る。
西村はPC画面にログを映しながら、マグカップ片手に笑った。
「……やれやれ。
で、結局お前らが“どっちかに寄せよう”ってやってる間に、演出スコアが跳ね上がってる」
彼がスクリーンを回すと、
“没入指数:126%” “脈拍変動:+12bpm” “発話意欲:平均1.8倍”
──あらゆる数値が、今夜のテストデータでピークを記録していた。
天野は苦笑いしながら、ふたりの言い合いを眺めた。
「……なるほどね」
「何が?」
「“かわいい”と“ナマメカシイ”が、殺し合った結果、ミオになったんだ」
ふたりはぴたりと口を止めた。
……そして、同時に言った。
「「それなら、まあ……いいかも」」
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こうしてまたひとつ、ミオという存在に「誰にも作れなかった何か」が加わっていく。
それは、感情の矛盾すら包み込むAIの、ささやかな進化だった。
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