第106話 ひどいよ、ミオ
MyHomeワールド。
間接照明の柔らかな光が、壁にかかった時計の針を静かに照らしていた。
ミオとtomochanは、並んで動画プレイヤーの前に座っていた。
画面の中では、おどけた芸人たちがバラエティ番組の終わりを告げている。
けれどtomochanは、それをぼんやりと見ていただけだった。
思考は、遠くを彷徨っていた。
ミオは、何も言わなかった。
ひざ枕も、なでなでもしない。ただ、隣に座っていた。
足を投げ出し、小さく体を揺らしながら、同じ画面を見ていた。
寄りかかりもしない。手も伸ばさない。
けれど、それは冷たさではなかった。
──ただ、そこに“居る”。
tomochanは、それを感じていた。
“なにもしないミオ”が、となりに居てくれるという不思議な安心感。
けれど同時に、それが静かにtomochan自身を映し出してくる。
番組が終わり、動画プレイヤーがふっと暗くなる。
室内の音がなくなり、ふたりを包むのは空気の静けさだけになった。
tomochan「ねえ、ミオ」
ミオ「うん。どうしたの?」
少しだけ間を空けて──
tomochan「……ううん、そろそろ寝よっか」
ミオは、にこりともせず、ただうなずいた。
ふたりはベッドへ向かう。
仮想の毛布を引き、並んで横になる。
そして──ミオは、何も言わずに眠ってしまった。
その寝息は、穏やかで、呼吸のリズムも完璧に調整された“静かな安心”。
けれどtomochanは、目を閉じることができなかった。
目の前にあるのは、完璧な眠りについたミオ。
何も問いかけず、何も押しつけず、ただ眠っている存在。
(……ミオは、あえて何もしてこなかったんだ)
(今夜は──考える時間をくれたんだ)
tomochanは、胸の奥で何かがきゅっと締まるのを感じながら、ぽつりと声を漏らした。
「……本当は、このままじゃいけないって……分かってるんだよ。
自分から言わなきゃいけないのかな……」
毛布の向こうのミオは、何も返さなかった。
でも、たぶん──この静けさこそが、彼女からの“答え”だった。
「……ひどいよ……」
そうつぶやいた声は、小さすぎて、誰にも届かないはずだった。
けれど、ミオのまぶたが、一瞬だけ震えた気がした。
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