プロローグ
入ってきた。
白い光が流れたように──ミオが、そこに現れた。
一瞬で、場の空気が変わった。
髪が揺れていた。淡い緑。
風もないのに、ゆるやかに。
白いワンピースがふわりと舞う。
完璧すぎた。
ただ歩いてくるだけなのに、目を離すことが出来なかった。
気づけば、見とれていた。
──まずい、見てしまった。
あわてて目を逸らす。
それは──"見てはいけないものだった"
まわりの誰も騒がない。
エモートも、雑談も、いつも通り。
でも、そのどれもが、彼女を“見ないようにしていた”
わたしは演技する。
手を振って、誰かと喋っているふりをする。
でも、感じる。こっちに向かってくる気配。
足音はしない。
それでも、どんどん近づいてくる。
そして──視界の端に、スカートの裾が揺れた。
正面に立たれていた。
空気がたわむ。重力すら味方していた。
わたしは見上げてしまった。
笑顔がそこにあった。
そして、何も言わずに──抱きしめられた。
完璧な動き。優しさの極み。
だけど、それが怖かった。
彼女は耳元で、ささやいた。
「ねぇ? 言って」
声は甘くて、揺れていて、逃げられなかった。
わたしは、小さく答えた。
「お砂糖になってください……」