20、勝利のパレード、二人の告白
最強のマテリアドラゴンを倒した数日後。
街では、勝利のパレードが開かれた。
避難した住民たちは、街が火の海に消えるのを覚悟した中、東の森でまっすぐな光の太い筋が見えドラゴンが倒されるのを見ていた。
聖女ルナが、自分たちを救ってくれたのを間近で感じたのだった。
ルナへの人望はますます高まり、彼女を一目見たいとパレードは盛り上がりを見せていた。
馬車に乗ったルナは、「聖女様最高!」「ルナ様のこっちむいて!」と声がかかる中、窓からみんなに向かって手を振ると、さらに歓声が上がった。
「すっかり英雄だね」
馬車にはリロイが座っており、窓の外の華やかなパレードの様子を見ては、自分のことのように嬉しそうだ。
「王から勲章が授与されるようだ。よかったな」
向かいに座るヴィクターは、本日の主役の聖女ルナの護衛側近役だ。
腕を組み、大剣を腰に下げて厳重な装いだが、ルナの栄誉に彼も喜んでいるようだった。
「咄嗟の判断でしたが、街の皆さんを守れてよかったです」
馬車の窓の外では、風船を持って駆け回っている子どもや、フラワーシャワーを投げている若い夫婦や老人たち。
この街の市民たちを守れて、本当に良かった。
「お二人のことも、絶対に助けたかったんです」
魔獣に命を奪われ、想いを寄せ合った同士来世で結ばれるのを誓う。
そんなメリーバッドエンドも、泣けるしエモいと思っていたけれど。
絶対に死なせないと、あの時心からそう思ったのだ。
そう微笑むルナに、隣のリロイも、向かいのヴィクターも笑う。
パレードで街を一巡し、ローウェン城に戻ったルナは、玉座に座る皇帝から最大の栄誉である勲章を手渡された。
光の聖女として、歴史に名を刻んだ瞬間だった。
パレード、勲章授与式の後は、華々しい舞踏会が開かれた。
バイオリンやチェロのオーケストラが演奏を奏で、ドレスを着た貴族の女性とタキシードを着た男性がペアになり、踊っている。
主役のルナも白いマーメイドドレスに着替え、シャンパンを持ちながら、そのダンスパーティを見ては拍手をしていた。
「ルナ」
振り向くと、漆黒のタキシードに着替えたヴィクターが立っていた。
精悍な彼にとても似合う姿で、思わず見惚れてしまう。
するとヴィクターは、
「生涯かけてお前を守る。……俺の心はお前のものだ。ルナ・レミリア」
そう言って膝をつき、ルナの右手を取るとそっと口付けた。
「ずっと、そばに置いてくれ」
急なことに驚いて顔を真っ赤にしていると、ヴィクターはゆっくり立ち上がり、優しく微笑む。
そして、ダンスパーティーの音が鳴り止んだのを機に、人混みに姿を消してしまう。
急な告白に驚き、その背中を目で追っていたが、
「ルナ、今いいかい?」
次に声をかけてきたのはリロイだった。
彼は真っ白のタキシードを着ており、白手袋にピアスをして、とても美しい。
リロイはルナの左手を取ると、その薬指にそっと指輪をつけた。
薄い紫色の宝石がついたシルバーリング。ルナの細い指に、サイズもぴったりだ。
「初めての魔力訓練の時に君が錬成した、アレキサンドライトだよ。
宝飾店で指輪に加工してもらったんだ。やっぱり、似合うね」
作るのに多大なる集中力を要し、ヘトヘトになった初回の魔力錬成訓練。リロイの部屋で二人きりだったあの時に作った宝石を、大事に取っていたというのだ。
「宝石言葉は『希望』、『幸運』、そして……『秘めた想い』」
彼は、ルナの左手の薬指につけた指輪を撫でる。
「愛してるよ、ルナ」
そう言ってリロイは美しく微笑む。
「返事はいらない。伝えたかっただけだから」
ハープの音色が響く中、大魔導士は優雅に礼をすると、彼もまた音と共に去っていった。
メリーバッドエンドにはならない。
メインヒーローの2人のどちらかと結ばれることはない。
魔獣を倒し、町中の人から愛され、メインヒーローの2人からは心から敬愛されるという、素晴らしいルート。
舞踏会の華やかな音楽の中、シャンデリアの光に照らされ、ルナは二人の男性からの忠誠と愛を誓われて、鼓動は熱く高鳴っていた。




