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第八話 キラークイーン

 炎は順調に燃え広がっていった。残りの油を洗面台についていたコップに汲み、窓から撒いた。炎は更に勢いを増し、火事と言っていい規模まで拡大していた。突然、警報だろうかサイレンが鳴り響いていた。そして、


 「司令部後方にて火災発生! 司令部後方にて火災発生! 直ちに消火してください!」


 魔女たちがそう言いながら走ったり飛びまわっていたが、窓の外に集まっている魔女の数からして先に通信魔法で全魔女に伝えられているようだった。炎は広がっていき、この牢の直ぐそこまで火の手が迫っていた。看守に大声で出してくれ! と言えば、いや、例えそうしなくても避難誘導はしてくれるだろう。牢に入れられた翌日に看守がきた時にざっくりだがそうなった場合の避難経路を説明された。声を出そうとした直前の事だった、目の前に張られていた結界が消えたのだ、どうやら他の牢も同様に消えているらしい。


 「なんだ~!? 結界が消えちまった!」


 「今のうちに出ちまおう!」


 「ま、待ってくれ! 俺も行くぜ~」


囚人たちが一斉に逃げ出し、看守が何とか抑えようとするが止められない。私も一緒に逃げ出だしたが看守とすれ違う瞬間、全体重をかけ、看守の顎に回し蹴りを打ち込んだ。完璧な角度、タイミング、速度だった。看守は後ろ向きに空を仰ぐように倒れていった。そのまま端の方まで引きずり、服をはぎ取ったが、中世的な声で気づかなかったが、どうやら男だったらしい。この軍が魔女中心なら看守という大事なポジションをなぜ男に任せているんだろうか、看守の服を着てみたが少しきつい程度で大丈夫だった。目指すは最下層だ。


 階段まで向かうが建物内の魔女の数は少なかった。まずは5階、更に魔女の数が少なくなっており、資料室や何やら実験器具のような物が置いてあったがそれだけで特に変わったものは無かった。次に、4階に降りようと、階段を一段降りた瞬間だった。明らかに空気が変わる。一段と暗く、冷たい空気が漂っていた。そのまま3階に降りれるわけではなく3階まで降りれる階段は別の所にあるようだった。水晶やら魔道具のような物があるが、もしかしたら監視しているのかもしれない。死角がどこか分からないが姿勢を低くして歩くしかなかった。 


 ふと窓の外を見てみたがどうやら私は甘かったようだ。まだ燃えているが、それは上部分の話しで下の方は一切燃えていなかった。だというのに上の方にはほとんど魔女が居なかったが下の方はまるで黒い布で覆っているのかと間違うほど魔女が集結していた。木が燃えただけで結界が消えたのは管理が杜撰だとか平和ボケしているとかではなく、どうでもよかったのだ。囚人が逃げ出そうと備品が燃えようと。ただ下にさえ被害が無ければ。ここで踵を返すのが賢明な判断のはずだがここまでしなきゃいけない理由が下にあるとするなら気になる。


 一旦5階に戻ることにした、実験器具のある部屋に来たが魔女はいないようだった。フラスコに何かの薬品が置いてあったり、魔道具らしきものがあったが、どんな物かどんな効果があるか一切分からなかった。何かないか探していたがふと、机の隅で光っている物がある。近づいてみるとナイフだった。そのまま袖に隠す。他にも石が乱雑に積み上げられ部屋の端で放置されていた。石を反対の袖に、もう一つを懐に忍ばせた。


 「おい! 貴様そこでなにをしている! 看守か? なぜここにいる! 顔を見せろ!」


看守の顔を覚えていたらごまかせないな…


 「どうした!」


振り向くと同時に袖から石を出し、魔女の顔目掛けて全力で投げた。


 「がはっ、ぐぅな、な、なんだ!」


怯んだ隙に目の前まで間合いを詰める、魔女が何か魔法を使おうとしていたがもう遅かった。


 「がはっ…」


黒いローブの色が少しずつ沈んでいく。下まで顔を見られずに行けるだろうか。少なくとも魔法を使われる前にやらなければ。

 再び4階まで戻ってきた、時間がない。死体は隠したが直ぐに見つかるだろう。身を低く保ちながら水晶を石を投げて破壊していく、素早く迅速に。階段が見えるが二人の魔女が警備していた。外は大騒ぎだというのに感情が全く読めない真顔だった。


 「パン!」


手を鳴らした、二人の内一人がこの角まで確認してくるはずだ。


 「なにかしら? 今の音聞こえたわよね?」


 「ああ、なんだろうね、見てくるよ、ここで待っててくれ、そして何かあったら援護を頼むよ、」


 「分かったわ。」


魔女の一人がこちらに向かってくる。


 「たしかこの辺だったはず…」


魔女が角を曲がった瞬間、看守の恰好をしているだからだろうが一瞬の隙ができる。口を押え、心臓にナイフを突き刺した。声を上げる間も与えなかった。いや少し呻き声をあげたかもしれんがとてもあの距離から気づける大きさじゃない。そのまま体を地面に横たえたが流石にその音は聞こえてしまっただろう。


 「ねえ! どうしたのよ! お、応援を呼ばないと、」


持ち場から離れず、まず応援を呼ぶのは警備として正解だが、なにかしらの魔法を行使していれば 私の接近を妨げられたのかもしれない。


 「動くな、体のどこの部位も一ミリたりとも動かすんじゃない。私の質問に答えろ、質問と関係ない言葉を発してもだめだ。」


 「…あなた一体、」


少しナイフを突き刺す。


 「があっ、、貴様…」


 「言ったろ、次はない。下には何があるんだ?」


 「うっ、知らない」


 「知ってるやつは?」


 「将官なら…」


 「下には何人の魔女がいる? どんな魔法を使えるんだ?」


 「誰が貴様なんかに!彼女をどう、がはっ、…」


手が汚れてしまったが看守の服で拭いた。もうこの格好でごまかせるほど甘くはないだろう、それにもう一々水晶を壊していく時間はない。次は3階だ。階段を下りるが、より一層木の根や葉が多くなってきた。魔女の数もより一層多くなっている。上の死体もすぐ見つかるだろう。強行突破しかないか、ポケットからマッチを取り出す。あと3本、燃えるだろうか、外とは違い湿気がある。階段で木の根をちぎり集めマッチを擦り息を吹きかけ火を育てる。何とか広がっていき、異変に気付いた魔女がやってきた。


 「なんだ!? 火か!?」


 「なんでここまで!」


 「中には燃え広がってなかったのに!」


 「直ぐ消火するわよ!」


 「待って! …誰かいる?」


 「え?」


煙と炎のおかげで私の姿は見づらくなっていたようだ。この期を逃す訳にはいかない。


 「な、なんだお前は、うっ、…」


まずは一人。


 「嘘…貴様ぁ! いっ、」


石を投げ、ひるませた隙に心臓にナイフ刺したが、後ろの魔女がこちらに指先を向け詠唱している。そのまま魔女を盾にしながら魔女に回し蹴りを打ち込んだ。3人か、まだいるようだがこれ以上は相手にしてられない。魔女が何か持ってないが探したがロープしか持っていないようだ何かに使えるだろうか。

 そのまま炎と共に階段を探す。何人かの魔女を後ろから絞殺したがなかなか見当たらない。すると突然声がしてきた。


 「侵入者! 侵入者! 直ちに排除してください!」


どうやらばれたらしい、いよいよ時間がない。辺りを見渡すと木の根が燃え、さっきまでは無かったように見えた穴が見つかった。火のついた枝や葉を落とした、下は見えるがそのまま降りては足が折れるかもしれない。ロープを引っ掛けゆっくりと降りていく。下には人がいないのか、なぜ塞がっていたんだ?


 「なぜ塞がっていたのか? ですか。それはここから出る事ができないからですよ、私もあなたも。」


 「何!?」


 降りるとそこには微笑を浮かばせた白い髪の女が立っていた。帽子とローブは他の魔女と同じだったが色が黒ではなく雪のような白色だった。


 「…心を読むのか」


 「ええ、その通りです。私は魔道隊大将オリヴィア。」


 「トップか、」


 「他に二人いますよ。なぜあなたはここに来たのですが?…なるほど下の秘密を探るため? なぜそんな事を? …支配と虐殺、転生者?」


体が動かない。あの女に見つめられているだけで、指先すらも動かせない。今までの魔女とは格が違うようだ。このまま終わってしまうのか、何か打開策は無いのか、


 「あなたの心は壊れているの? 意味が分からない、支離滅裂だわ、魔法か何かの技術で読心を防ごうと無駄よ、私は深層心理まで読めるの、そんなものは効かないわ!」


そう言った直後、白い女は動かなくなってしまった。瞼すら閉じない、目を見開いたまま絵画さながらの変化の無さだ。ビル程ある昆虫でも見たらこんな顔になるのだろうか。


 「あ、あ、あああああああああああああああ」


突然の事に驚いて一瞬硬直してしまったが、魔女は叫び終わるとそのまま膝から崩れ落ちた。この女に何があったのだ、体は動かせるようになっているが今の内に殺害するか、それとも今の内に先にいくか。


 「オリヴィア! どうした!」


 「オリヴィアちゃん! どうしたの!」


同じく白い魔女が二人来たが、何をすればいいか分からない。さっきの魔女と同列なのなら私に勝ち目はないだろうがなぜこの魔女が倒れたのか分からない。二人の内一人はオリヴィアという魔女の上半身を抱き起し必死に呼びかけている。男に見間違える程、中性的な顔と声だったが胸はそれなりにあった。もう一人は幼い顔だちだが雰囲気はどこか大人びていた。魔女を心配そうにしながらもこっちをにらみつけ視線を外さない。ここまで考えて今、再び体が動かない事に気付く。呑気にどうでもいいことにも考えを巡らせていたが、一種の思考放棄だろうか、二人から困惑と憤怒を感じるが私は本当に何もしてないのである。


 「貴様! オリヴィアに何をした!」


 「アレックス気を付けて! 今動きを止めているけど、オリヴィアもそうしたはず、この看守の恰好をした男が何をするか分からない。今の内に水晶を確認してきて!」


 「分かった、気をつけろよ!」


 アレックスという魔女が元来た方に行ったがどうやら水晶があるらしい、水晶はただの監視機能だけかと思っていたが映像記憶機能もあるのか、それとも特別な水晶なのか。少なくとも壊して回ったのは正解だったらしい。


 「私は記憶を読むことができる。今から貴方に質問をします。嘘は意味がありません。あなたの心に聞くのです。オリヴィアに何をした?…何も? 記憶を読んだ途端に? なぜ。貴方は何者なの? 転生者? …だから何? 意味が分からない、こんな支離滅裂な心…なんでこんな心情なの? オリヴィアは記憶を読んだ途端に気絶したというの? 悪いけど、貴方の記憶、丸裸にさせてもらうわ!」


 まただ、彼女はそう言った直後気絶し崩れ落ちた。再び動けるようになる。


 「オーロラ! オリヴィアは何故か記憶を読んだ途端に…オーロラ? オーロラ! おい! しっかりしろ! …貴様、何をしたんだ…」


 彼女の目や態度からは既に憤怒だとか闘志などといった感情はもう無かった。その目には恐怖と疑念が満ち溢れていた。かと言って場を制したとは思えない。この女は記憶を読んだのがトリガーだと分かっている。何とか私の記憶を読むよう仕向けなければ。


 「オリヴィアもオーロラも貴様に記憶を読んだからこうなったのか?」


 「どうだろうな?」


さっきと違い、口を動かせ、体も自由だったが、突然光のようなものが私の体を締め付け膝をつかせた。


 「うっ、な、何を」


 「貴様は殺す、この手で。」


 「本当に私を殺せると思うのか? 単独でここまで侵入し、大将二人を行動不能にした私に?」


 「なぜ貴様はここまで来た? 答えろ!」


締め付けがより一層きつくなる。単純な痛みというのは耐え難いものだ、読心術よりもずっと、拷問した方が効率がいいな、私に限りだが。


 「下のアレに用があるのさ!」


 「なん、だと、なぜあの存在を知っている!」


 「言えないな、それだけは」


 「答えろ!」


再び締め付けられる。


 「うぅぐ、く、あ、荒っぽいな随分、こんな事していいのかね? 後ろの彼女達、そろそろ命が危うくなってくるぞ、あと三分といったところか。」


 「何? でたらめ言うんじゃねえ!」


 「本当さ、私の魔法さ、この魔法を使ってる時は他の魔法が一切使えないが対象を確殺できるんだ。逃れる術は私しか知らない。あと、約二分。」


 「ならば、今すぐにその術を答えろ!」


「ゴギッ」といった鈍い音が鳴り響いた。複雑な形で手が締め付けられていたため右手を折ってしまったようだ。冷や汗が出てくる。嫌な汗だ。


 「ふん、教えられないな! こんな拷問なんてやってないでさっさと殺せばいいだろう? それでいいはずだ。確かにそこの二人は死ぬことになるが、下のアレと私の接触を妨げられるだけでも上々だろ?」


 「俺は魔法で貴様にどんな苦痛も与えることができる。それでもか?」


 「当然さ! 何をやったって無駄さ! 何なら気分がいい、私に惑わせされ、仲間を失いかけている君を見るのはね! あと一分。」


 すると突然、耐え難い苦痛が全身を襲う、全身がねじれていくような感覚だ。今まで味わったどんな苦痛よりもひどいかもしれない。歯が砕けるんじゃないかという力で歯を食いしばった。痛みでよく分からないがこの女は私に蹴りを入れながら何やら罵詈雑言を言っているようだった。幼稚だが最も効果がある方法かもしれない。私以外になら。相手が焦っている証拠なのだ。拷問はある程度したら尋問に切り替えた方がいい、じっくりと時間をかけるべきなんだ。蹴り入れられ苦痛を味わっているのは私だというのに、彼女の心に恐怖が渦巻いていくのを感じる。そして顔を上げ、まるでセールスマンがするような張り付いたにやけ顔をしてみせる。


 「あと、三秒だ。」


刹那、魔女の顔を恐怖が埋め尽くした。


 「あっ、あっ、あっあああああああああああああああ」


 魔女は他の魔女同様、出来の悪い人形を少し浮かせて落としたかのような倒れ方をした。私の勝ちだ。何故気絶するのかは分からないが、私の前世の記憶を見たからだろう、少々刺激が強かったようだ。倒れている三人の喉と心臓に手早くナイフを突き刺し、そのまま奥に進んでいく。まだ全身が痛むがなんとか歩く事はできた。他には誰もいないようだ。ある程度進んだところで大きな鋼鉄の扉を発見した。場違いにも程がある、木の根や葉に覆われたそれはこのメルヘンな雰囲気とはミスマッチだった。何やら紋章か魔法陣のようなものが彫ってあり、魔法か何かで封じられているかと思ったが、ただただ重いだけでなんとか開く事ができた。


 階段を降り、1階まできたが、窓は木の根で覆われ光が一切遮断されており、それとは対照的に室内には一切木の根や葉が入ってきていなかった。まるで貴族の館のような内装だった。木製の質のいい机や椅子が置かれ銀の食器や純金だろう置物や絵画が飾ってあった。1階とはいったが巨大な部屋のようだった。部屋の中央には巨大な水晶が置いてある。これで監視していたのだろうか。純金の置物を素早くくすねながら奥にある扉まで向かう。先程の扉に比べたら小さいが彫ってある紋章だか魔法陣が一見何も無いように見えるほど小さく細く、そして複雑な形をしていた。扉を開けようと取っ手に手を掛けたが手のひらからその重さが伝わってくる。少しなら隙間を空かせる事ができるが私が入れるほどの隙間は厳しいだろう。椅子を引っ掛け、てこの原理で開けることにした。上質な椅子だったおかげか折れる事もなく先に進むことができた。


 階段は薄暗く先が見ずらかった。踏み外さないように慎重に進む。薄暗い中進んでいき、光源が無いというのに少しだが見えている事に気付いた。窓も松明も何もないというのにぼんやりと先が見えるのだ。

丁度200段下ったとこだった。さっきの扉と同じ模様の扉があった。この狭さではさっきのようにてこを利用する訳にも戻って何か持ってくるのも絶望的だ。負傷覚悟で開けようとした瞬間だった。扉が勝手に開いたのだ。

 

 中は暗く、石づくりのドーム状の広い空間だった。200人は収容できるだろう。中央には椅子、そしてそこに座る人影が見える。するとその人影に緑色の淡い光のようなものが集まっていく。さっき階段で辛うじて先が見えたのはあの光のおかげだろう。人影がだんだんはっきりしてきた。


 「君は誰だい? ここまで来るなんてよっぽどの物好きなんだろうねぇ。」


そこにいたのは魔女だった。しかし他の魔女や白い魔女とも違う服装と帽子の形だった。つばの広い帽子の先端は折れ曲がり、ローブは控えめなドレスのようになっており体のラインがよくわかるつくりをしていた。なにより長い艶やかな黒い髪と笑っているようにも見えるたれ目、暗く淀んだ瞳、世界にこれ以上に美しい女性がいるだろうか、どこのだれの想像も超えてくるだろう。豊満な胸と魅惑的な口元やほくろは見る男全員を魅了するはずだ。椅子に座っているというのにこちらを見下しているような視線と態度はまるで女王のようだった。

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