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第六話  ブラックドッグ

 「どうかされましたか? ご気分が悪いのですか?」


 「いえ、うっ、大丈夫です。私のいた世界の話しをしましょうか。」


 「ありがとう、でも今はルークが居るから後でお父様と一緒に聞かせてもらう事にしたわ。お気遣いありがとうね。それより、あなたのさっきの話し感動したわ。」


 「さっきの話し?」


 「ガブリエルの事励ましていたでしょ? 優しいのね、私はあんな励まし方できないわ。」


 「無職がそれらしい事言っただけですよ。働いている人の話しを聞いた方がよっぽどためになるでしょう。」


 一通り話し終わると馬車が城の周りを周回している事に気づいた。何のためだろうか、例えが悪いが生ごみの周りを飛び回る蠅のようにも思えた。


 「さっきから城の周りをまわっているようですが何かあったのですか?」


 「今ルークが通信魔法で他の兵士と連絡を取って、安全に降りれるように調整してくれているの。私、ちょっと降りるのが苦手で広場にいる兵士のみんなに邪魔にならないよう指示してくれているのよ。」


 「なるほど、」


 「姫様、準備ができました。いつでも大丈夫です。」


 「分かったわ、それじゃ降りるわよ、」


マーガレットは目を閉じ集中し始めた。離陸時よりも高度な作業なんだろう。窓から滑走路のようなものが見えてきた。誰かが杖か何かを光らせて合図しているようだ。そのまま吸い込まれるように滑走路が迫ってくる。「ドンッ」っと衝撃が走ったかとおもえば、馬車が前のめりになりながら停車する。なんとかなったらしい。


 「はい! 終わり、ケガしてない?」


 「ええ、なんとか。」


 「よかったわ。じゃあ行きましょうか。」


広場から城を見上げるとその荘厳さに圧倒されるが、現役で稼働している城に対し、ある種の感動を覚えた。姫について行き、城の中に入ると人々がせわしなく働いている。姫に気づくと全員深々と頭を下げ、挨拶するが、かしこまった雰囲気ではなく、親しみやすい雰囲気がながれていた。姫が慕われているからだろうか、奥に進み、階段を上り、左に曲がり、今度は右に曲がる。やっとの思いで応接間であろう部屋まで来れた。


 「ここにお父様がいるわ。ルークはここで待ってて頂戴。」


 「承知致しました。」


 中に入ると、50歳位だろうか立派な髭を携え、ブロンド色の髪は肩まであり綺麗に整えられていた。端正で、しわと髭のおかげで威厳ある顔立ちをしていたが、その口元は微笑み、親しみと慈愛に満ちた目をした男が立っていた。どこで会おうと、服装と何より溢れ出る威厳から国王だと分かるだろう。コートを掛ける所はないかと探したが国王がそのままで構わないといった様子で手招きするためそのままソファへと向かう。


 「やあ、待っていたよ。そこに掛けてくれ。」


ソファに腰を掛けるが余りにもふかふかしていて逆に座りずらかったが、姿勢を正し胸を張って、さながら国王に従順な騎士のような態度で話し始める。


 「早速、話しを始めても?」


 「もちろんだ」


国王の目から慈愛と親しみさが消え、まるで少年のような好奇心と期待に満ち溢れていくのが分かる。マーガレット姫も2回目だというのに国王にも負けないほどの高揚が伝わってきた。何か探りでもいれようとしたが、この部屋には異質な形をしたオブジェや水晶などが至る所に置かれていた。国王の趣味だとは思えないし、恐らくは魔道具の一種だろう。心を読まれでもしたらそれで終わりだが、何がどんな効果があるか分からない状況でリスクは冒す事はしたくなかった。ここは素直に前世の話しをする事にしよう。


 「…それで宇宙空間では空気もなく重力もないんです。重力というのが何か分かりますか? 私のいた世界でも詳しいことは分かっていませんが全ての物体同士はお互いに引きあっていてその力を引力といいます。それに地球が回転する際に発生する遠心力とあわせて重力となるのです。人類は何度かに分けてパーツを大気圏の上まで飛ばし宇宙空間で組み立て、宇宙ステーションを完成させました。そこでは実験や研究を主に人類の発展に貢献しているのです。」


「凄いな、そんなことがあるのか、そこまで話してもらっても想像ができないよ。他には何かないのかい? 私としては文化や暮らしぶりについてもっと知りたいんだが。」


 「先ほども申し上げた通り、国によって大きく文化や暮らしぶりに違いがあります。まだ話していない事といえば娯楽についてでしょうか、酒やスポーツはもちろん、テレビという何でも映す事ができる道具があり、映画という人が演じた架空の物語や絵を繋ぎ合わせて動かすアニメなどが放映されているんです。携帯電話という物があり遠くにいる人とも会話でき、文字でのやり取りも可能です。」


マーガレット姫はそんな物無くても魔法でできるじゃないといった様子だが国王は食い気味に質問してきた。


 「それは魔法が使えない者でも使えるのか?」


 「もちろん。」


 「それは素晴らしい、是非欲しいな、そして国中に普及させたい。魔法が使えない者に持たせればありとあらゆる仕事や生活の効率が大幅に上がるだろう。今すぐに作ってほしいと言ったら、作れるかい?」


 「難しいですね。原理は分かりますが材料がない、ここでは生産するのが絶望的なパーツもあるので、ですがラジオならなんとかなるかも知れません。」


 「ラジオとは?」


 「離れていても音声の受信ができる装置の事です。一方的にですが大多数の人に情報を伝える事ができます。」


 「十分だな、王都の西の端に鉄や銅を用いて実験や研究をしている機関がある。そこにいけば材料などがあるかも知れないが、研究している物が何の役に立つか分からず、研究している本人達もよく分かっていないんだ。魔法でできることばかりで予算も出せなかったが君が来た事でなにか変わるかもしれない。そこに行って、研究に参加してはくれないか?」


 「やってみましょう。」


 「それじゃあ解散としよう、心惜しいが時間がなくてね。今日は本当にありがとう。本当に有意義な時間だった。研究にも期待しているよ。」


 その後はマーガレット姫とルーク隊長に見送られて城をあとにしたが、行きは馬車で送ってくれたというのに帰りは歩きのため少々不服だがまあいいだろう。時刻は11時をまわろうとしていた。酒場や娯楽施設なんかがある繁華街は賑わっていたが孤児院の近くまで来ると、すっかり暗く、街灯が夜道を照らしていた。孤児院に着くとアモンが玄関先で待っていた。


 「やっと帰ってきたか」


 「なんで外で待ってたんだ? そんな心配だったのか?」


 「そりゃ、そうだろう? 子供たちはもう寝ているから起こさないようにしてくれよ。」


子供たちを起こさないように静かにアモンの部屋まで向かい、本棚を引いて地下のバーまでやってきた。


 「久しぶりだな、ばあさん、くたばってなかったのか。」


 「ふん、私はもう1000年は生きるつもりさ! つーか昼に会っただろう!」


 「完全に化け物だな。」


 「あんたに言われたかないよ!」


 「なんでここまでわざわざ来なきゃなんないんだ。ばあさんが上にくればいいだろ。子供の心臓に悪いかもしれんが。」


 「ここはキルケのおかげでどんな魔法だろうが通さないし、感じないし感じさせないことができるんだ。秘密の話しをするならここに限るのさ。キルケが許可した者は魔法が使えるが、この空間にいなければならないから実質外部からの接触は不可能だ。」


 「なるほどな。」


 「さて、どうだった? うまくいったか? 側近になるとか?」


 「いきなりそんなことになる訳ないだろ、ただ王都の西の端に鉄とかで研究している機関があるそうなんだ、そこでの研究を手伝って、ラジオの製造を任されたんだ。」


 「ラジオ? いや、それよりも西の機関か、鉄心熱技会のことだろう。」


 「なんだそれは…」


 「機関なんて大した感じじゃなかったが前に見たことがある。」


 「まあいい、とりあえず行ってみるさ。それより、王都に治安維持組織はあるのか?」


 「魔道隊のことか?」


 「なんだって?」


 「魔道隊だよ、よくいるはずだが?」


 「見なかったな。」


 「上だよ、空さ。構成員のほとんどが魔女でね、いつも空から監視しているんだ。そういえば昼間は式典があったね、多分邪魔にならないように離れたところから監視していたんだろう、夜は影が見えないし真っ黒な服を着ているからね見なかったのも無理はない。」


 「そんな奴らがいたのか、あと、水路を見かけたが飲み水と繋がっていたりするか?」


 「水路か、毒でも入れるつもりか? あれは既に魔法で浄化した水を川の下流にながしているだけさ、上流から水を汲んでいるとこもあるが結局浄化されるし魔道隊がすっ飛んで来るぞ。」


 「どれくらい早く来るんだ?」


 「分からないな、」


 「そうか、試したい事があるんだが、川からでもいけるか?」


 「何をするのか分らんが、警備兵から川はよく見えるし一人で上流にいけば怪しまれるだろう。」


 「一回捕まってみたくてな。」


 「正気か!? なぜそこまで、」


 「大丈夫だ翌日には厳重注意で帰れるようなことで捕まるんだ。魔道隊についてある程度わかるし基地かなにかあるんだろう? そこの中も見ておきたい、どんな奴が捕まっているのかも。」


 「大胆だな、司令部が北にあるがそこに連れてかれるか、その場で注意されて終わるかどちらかだろうな。やるなら結構な事をした方がいい。」


 「分かった。ジンをくれないか?一番強いやつだ。あと煙草も。」


 「酔っぱらったら元もこもないだろう、何考えているんだ。」


 「大丈夫さ前世も今もほとんど酔わないんだ。酒臭い方が疑われずに酔っぱらいだって思うだろう?」


 キルケが出してきたジンを一気飲みにする。頭にガツンと強い衝撃が走るがやはり酔わない、若干涙も出てくるが気にせずそのまま煙草をくわえる。


 「おい、吸うのは孤児院を出てからにしろよ、マッチは持ったのか?ないなら貸すよ。」


 「ありがとう、それじゃ、」


そうしてベルゼはバーを後にした。


 「あの子ほんとに彼なのかね?」


 「あの魔法が掛かってたんだぞ、それを私が解除したんだ。君の発見した方法でね。なにを疑うことがある?」


 「別に、あまりにも長い間待ってたからなんか実感がなくてね。それより、うっ、うぅぐ、物凄く気分が悪い、うっ、吐きそう…」


 「普段酒なんか飲まないのにそんなに飲むからじゃないか、自業自得だろ?」


 「うるさいね! 私が一番嫌いなのは正論言うやつだよ!」


 「じゃあどうしろってんだよ。心配しなくてもベルゼは大丈夫さ今のところはね。」


 街はずれまで来たがなかなか水を汲んでる場所が見当たらない。千鳥足で歩きながら探すのはちょっときついが吸いなれない煙草の煙でむせないようにする方がきつい。ふらふら歩いているとそれらしきものがあった。できるだけ自然に、いかにもな酔っぱらいを演じながら煙草の吸殻を何とか水が流れている場所に落とす。すると突然、上の方から声がしてきた。


 「そこのお前~! ポイ捨てしたな~! しかも水路の中に! しかも水を汲んでる方! 許さないからな~!」


どう見ても女の子だ、13歳ってとこだろうか? 真っ黒なローブにいかにもな帽子。犬みたいに叫んでいるが本当に魔道隊なのか? よっぽど人手不足なんだろう。

 

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