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プロローグ
11月のよく晴れた日だった、鳥たちのさえずりや、木々の間を駆け巡る風の音が聞こえてくる。目隠しの間に入り込んでくる日光から、だいたい正午過ぎだということが分かる。心地良い風や陽ざしとは対照的に靴裏から伝わってくる石畳の冷たい感触は、これからの行く末を暗示しているようだった。木の柱に縛り付けられ、銃弾によってできたささくれがうなじに刺さる。
最低でも5人は執行人がいるはずだか、物音一つしない。これから何が起こるか、分かるわけもなく、鳥たちは呑気に歌うように鳴いていた。
静寂を引き裂くように。
「構え!」
迫力と品格を兼ね備えた声で言った。
「撃て!」
号令と共に乾いた音が響き渡る。
乾いた音と同時に長きにわたる絶望と憎悪の時代が終わった。怪物と呼ばれ全人類に恐れられた男が死んだのだ。