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ショートショート10月〜5回目

否定癖

作者: たかさば

『無くて七癖、有って四十八癖』


 誰にでも、七つくらいは癖がある。

 しかも、七つどころじゃなくて、四十八もあるらしい。


 自分の癖は…。


 おかしな箸の持ち方。

 挨拶する時につま先を見る。

 消しゴムの片方の角は使わない。

 自転車に乗る時にサドルを叩いて確認する。

 集中している時にボールペンのボタンをいじる。

 たためるゴミは小さく折って捨てる。

 焦った時に眼鏡を丁寧に拭く。


 確かに…、七つくらいなら、すぐに浮かぶ。


 たぶん、気が付いていない癖もたくさんあるのだろう。

 きっと、気が付かない方がいい癖もたくさんあるのだろう。


 何気ない口癖、思考癖。

 すぐに足を使おうとする癖に、酔っ払うたびに説教をする悪癖。

 髪の毛はくせ毛だし、くせ字が強くて驚かれることもある。


 たぶん、気持ちをごまかすたびにおかしな表情をしているのだろう。

 おそらく、イライラするたびに解りやすい動きをしているのだろう。


 ……いい大人になったというのに、みっともないことだ。


 大人になったからこそ、ダメな部分に目を向けることができたのかもしれないとは思う。

 だが、ダメな部分に気が付けたところで、それを受け止めるだけの気概がなければどうしようもない。


 ああ…ダメだ。

 何を考えても、否定する癖が顔を出す。


『無くて七癖、有って四十八癖』

 人は、多かれ少なかれ…癖を持っているものだ。


『人に七癖、我が身に八癖』

 人は、多くの癖をもっているが、自分の癖というのはそれ以上に多いものなのだ。


『人に一癖』

 誰しも癖を持っているのだから、普通ではない一面を持つ人はいるものなのだ。


 ……きっと自分は、一癖ある人物だと認識されていることだろう。


 何を言っても、否定で返す。

 何を言っても、否定しかしない。

 何を言っても、否定しなければ気が済まない。


 ……どうせ癖のある人だと思われるのであれば、もっと嫌われないようなものが備わっていたらと思う。


 どうして自分は、他人を否定してしまうんだ。

 どうして自分は、自分を否定してしまうんだ。

 なぜ自分は、否定することしかできないんだ。

 なぜ自分は、否定するたびに満足してしまうんだ。


 否定癖が、自分の首を絞める。

 自分は、こんなふうになりたかったわけでは…無い。


 ……わかって、いるのに。


 ――なんだこの企画書は!!

 ――こんなタイムスケジュールでうまくいくはずがないだろう!

 ――こんなのは失敗するに決まっている!

 ――この考え方がダメなんだ!

 ――もっとよく考えなかったのか?!


 口を開くたびに、孤立していく。

 何も言わないでおこうと決めても、衝動が抑えられない。


 冷たい目、怯える目、憎々しげな目、逸らされる視線。


 どうしてこうなってしまったのだと、胸が痛む。

 どうしてこんな風にしかいられないのかと、心が叫ぶ。


『無くて七癖、有って四十八癖』

『人に七癖、我が身に八癖』

『人に一癖』


 広く知れ渡った、有名な慣用句。


 人には癖がある事を理解してくれる人は…どこかにいるはず。

 自分が、自分の癖を理解して、人の癖を分かろうと思う気持ちがあるように。


 きっと、俺のことを理解してくれる誰かが。


 ……誰かが。


「やっほー!新貝さーん!乙でーす!!!」


 能天気な声が聞こえてきて、澱んでいた気持ちが少し…揺れた。


「ええー、ゴメンちゃい!!正しい挨拶の仕方、プリーズ、プリーズ!!」


 不躾な言葉を聞いて、くすぶっていた胸が、揺さぶられた。


「ねーねー、僕挨拶することになったんだけど、読めって言われた文章が難しくて!!ごめんだけど一回読んでもらってもいい?でもって、フリガナ、ふってー!!」


 マイペースで子供っぽくて図々しくてかわいいそぶりをわざとらしく見せ付ける、大人の貫禄のかけらもない知人の姿を見て…心が騒ぎ出し、止められなくなった。


「なんだそれは!!見せてみろ!!なになに、ご来賓の皆さま…平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます…、…、誰だこんな堅苦しい文章を用意したのは!!集まるのは識者ばかりじゃないんだぞ!!ここは省略だな、こっちは……ブツ、ブツ……」


 クヨクヨと考え込む癖を吹き飛ばされた俺は…、否定癖を撒き散らしながら。


 一癖も二癖も三癖も四癖もある知人に、檄を飛ばした。





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