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異世界ラーテルは喧嘩を売る。  作者: 石斧
プロローグ
4/10

VSチキン

 大狼を撃破したと同時に、漁夫の利にきた鶏とトカゲの合わせ子の様なモンスター。チキンランクス。


 相対するは、血に濡れた身体と鉤爪を拭うラーテル系獣人のテル。


 草場からは次々とチキンランクスな現れる………数にして8匹。それなりの大所帯だ。


「けっ、数ばっかり集めやがって…………」

「囲まれたわね。バフは居る?」

「チキン程度ならいらねぇ。それよりもバリアの方に魔力使え………」

「わかった。」


 そう言ってインディは杖の先端に魔法玉を装填し、そして杖を地面に突き刺す。


 すると、待ちきれずに一匹のチキンランクスがインディへと飛び掛かる!


「ッ!」


 次の瞬間、飛びかかったチキンランクスの胴体に、テルの鋭い鈎爪により深い引っかき傷が負わされる。


 切り裂さかれたチキンランクスは大きく吹っ飛ぶと、地面に数度バウンドしてからバタリと地面に倒れて身動きを取らなくなる。


 そのチキンランクスの肌には痛々しい鈎爪の跡が残されていた。


 その傷口からは血が滴っていく……どうやら、勢い任せに相当深いのが入ったらしい。


「一匹目……!」


 テルは顔にかかった返り血を舐め取ると、爪を研いでチキンランクスを見る。


 だが、チキンランクスは怯む様子なく一匹、また一匹とテルとインディへと襲いかかる。


「っ!ヒート!」


 インディは、杖から火の粉を灯してそれをチキンランクスへぶつける……が、怯ませる位で大したダメージにはならない。


「やっぱ攻撃魔法(こっち)苦手!」


 そうぼやくインディと背中合わせに、テルは飛びかかってくるチキンランクスの牙を、真正面から腕に噛みつかせてみせる。


 しかし……全く持ってチキンランクスの牙は通らない。まるで硬いゴムでも食わされている様な感覚だった。


 これこそ、ラーテルか対モンスター戦のインファイターとして優秀な理由の一つ。


 再三申す様にラーテルの皮膚はゴムのような硬さを持っている!その為、獣の牙はラーテルには通らないのだ!


 テルは噛みついてきたチキンランクスの頭を、腕を噛ませたまま鷲掴みにして……次の瞬間叫ぶ。


「いってぇんだよ!」


 そう叫んで、テルはチキンランクスを地面へと叩きつけた。


 ボキッと嫌な音が響くと、叩きつけられたチキンランクスはピクピクと痙攣した後動かなくなる。首の骨が折れたのだろう。


 あっという間に二匹……流石にチキンランクスも竦んでしまう。また足の爪を地面に忙しなく打ちつけるチキンランクス。


 吠えるばかりで迫ってこないチキンランクスに、テルは呆れにも似た声をあげる。


「来ねぇのか?ならこっちからだ!」


 次の瞬間、テルはクラウチングスタートの様な体勢をとってから地面を蹴りつけて、チキンランクスの群れに飛び込んだ!


 牙をむき出しにして、テルは迫るトカゲ共を切り裂く。確実に急所を狙い、首元へと爪を立てる。


 あたりの木々にはチキンランクスの返り血が腐るほど浴びせられる。


 後ろで火の粉でチマチマとチキンランクスに対処していたインディのローブにも返り血がつく。


「ちょっとテル!?血が!血がすごいことになってるから!」

「ズタズタにしてやる!」

「ズタズタは駄目!皮が買い取ってもらえなくなる!!」


 戦場にしては随分と緊張感のなやり取りをするインディとテル………まぁ、何分この二人も修羅場くぐって居ないと言う訳だ。




 やがて、3匹がテルの発言通りズタズタにされて地面に転がる…………そのあり様を見れば、チキンランクスは甲高い鳴き声を上げてその場から走って逃げ出す。


 チキンランクスは、見た目だけではなく中身もチキン。


 仲間がある程度やられるとその場から逃げ出すのも特徴の一つだ。


 引き際を見極められるのは、モンスターとしては優秀だ。


「ふぅ……なんとかなったわね。……攻撃魔法、もっと取得したほうが良いわよね。」


 インディはそう言って頭を悩ませる。インディも基礎的な攻撃魔法は使えるが…………彼女はバフ・デバフの魔術を得意とする魔術師。攻撃魔法は得意分野ではない。


 インディは大狼の亡骸の方を振り返り、剥ぎ取りのためにナイフを取りだす。


「さぁ、テル。この大狼に…………ついでにチキンランクス、剥ぎ取るわよ。」

「まだだ!」

「はぁ!?」


 テルは鋭い目つきで逃げるチキンランクスを目で追っていた…………その様子を見て、インディは心の底から嫌な予感がする。


「あんた…………まさか!?」

「野郎喧嘩売っといて途中で逃げ出すなんて許さねぇ!」

「馬鹿野郎!!??」


 インディは咄嗟にテルをつかもうとするが、するりと抜けてテルはチキンランクスを追っていく。


「あぁ……もぉ!馬鹿ぁ!!」


 インディは急いでテルを追いかける……勝手に剥ぎ取っていれば良い手はないかと思われるかも知れないが、こんな森の中で人間一人は心もとない。特に、インディのような後方支援担当の人間は、だ。


 その為、インディは否が応でもテルを追わなければならない。


 インディは咄嗟にテルを追いかけるのだった。










 その間、テルは四足歩行で地面を駆けていた。チキンランクスはコンビネーションは良いが個々の能力は最低クラス。


 テルのような獣人ならば、種類にもよるが十分追いつくことが可能だ。


 そして、逃げる獲物を狩るのは肉食動物の得意分野でもある。


「もぉらった!」


 テルは逃げるチキンランクスを追いかけ………すれ違いざまにその首元を切り裂く。


 切り裂かれたチキンランクスは、力が抜けたようにその場に倒れ込む。


 次々と駆られていくチキンランクス…………仲間の亡骸を見てきた最後の一匹が何を思うのかは、知れたことではない。


 あるのは…………世界一喧嘩っ早い種族に目をつけられた不運。それだけだ。やがて、その最後の一匹も首元にかぶりつかれて……終わる。





 少ししてから、インディとテルは無事に合流した。インディはそこまでの距離を走ったわけではないのに、ぜぇはぁと息を整えている。


 対してテルはスッキリしたと言わんばかりの表情で、狩ったチキンランクス達を引っ張っていた。なぜだが無駄に良い笑顔なのが腹が立つ。


 テルと合流してまず一番にインディが行うのは…………


「このおバカ!!!」

「いったい!?」


 杖によるテルへの制裁だ。インディは何度も何度もその杖でテルを叩きつける。


「なんで!あんたは!いつも!そうやって!深追いするの!?」

「いてて……うるせぇなぁ!一度噛みついたら死んでも離すなって教えなんだよ!一度噛んだなら根こそぎ喰らい尽くせって教わった!父さんも父さんの父さんも父さんの父さんの父さんもそう言ってた!」

「いやな種族!?あんたん所やっぱ可笑しいって!」


 インディはそう叫ぶと、深く溜息をついて振り向く…………


「ほら、大狼の剥ぎ取りするわよ。」

「あっ…………忘れてた。」

「当初の目的!?あんたチキンランクスよりも鶏頭してるわよ!?」


 ……因みに、大狼の亡骸は少し離れた隙に野生動物やモンスターに荒らされて、かなりの素材がだめになりました。


 深追いせずにさっさと剥ぎ取ればよかったので、原因となったテルはまたインディにしばかれることとなるのでした。

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