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第31話 聖都レヴィントン

 天気のいい昼下がりの魔法王国。その田舎道を馬車ゴレムがざっぱ。ざっぱと進んでいる。

 僕、ステア・リード(体は魔女(カリナ))はその馬車の際を歩きながら、乗っている女の人たちと、たわいもない話をしていた。


「正規の魔女さんはやっぱ大変なのねぇ」

「わざわざ歩いて体を鍛えなくちゃいけないなんて、おかげで助かったわ」

「あ、いえ。こちらもいろいろお話しできて楽しいです」


 僕は聖都レヴィントンまでの道中、このゴレム馬車をいわゆるヒッチハイクの類に使わせてあげていた。宿を取った町や村で、聖都方面に行きたい人や運びたい荷物などを引き受けて、少しばかりの謝礼を頂戴したり、宿代をまけてもらってたりしていた。


 魔法王国の女性は基本全員が魔女で、近場なら飛んで行く事は出来るが、遠方だと逆に魔力が持たずに力尽きてしまう。また荷物を運ぶのも飛ぶよりこういう馬やゴレムなどを使う方が効率的なのだ。少し離れた村や町に行きたい人、近隣の町に収穫物を届けたい人なんかには大いに好評で、今もまた3つ先の町まで行きたがっていた女性二人をゴレム馬車にのっけて、送ってあげているのだ。


 でも主目的はこの魔法王国の女性たちがどういう生活をしてる人たちなのか、そして何を望んでいるのかを、きちんとした対話で知る為だ。元々僕とカリナの体の入れ替わりに端を発する相手国への旅行は、お互いの国同士をもっとよく知り、その情報をエリア810にしっかりと持ち帰るためにあるのだ。

 なのでこうして王国の人たちと話をするのは無駄じゃない。時には思わぬ情報が聞けることも少なくなかったりするのだ。


 だけど、相変わらずわからないことが一つ。

 彼女たちもまた、馬車の屋根の上でごろごろしてる少女、ナーナの姿は全く認識できないでいた。

 彼女(ナーナ)は時々会話に混ざろうとしたり、歩いている私に抱っこされに来たりしているが、僕がそれに応じて言葉を返したり、抱き上げるアクションをしたりしても、女の人たちは全く反応しなかった。


『見えない』というより『認識できない』という感じのほうがしっくりするなぁ。


「で、戦場での機械帝国の兵士ってどんな感じなの?」

「やっぱ凶悪なの? 長い牙と爪で魔女を引き裂くんでしょ?」

 で、会話に必ず混ざるのがこのテの話題だ。僕が810で戦っていると知ったら当然、相手である男性(・・)の情報が気になるのは仕方ないらしい。なにせこの国に来てもう4日、未だに男性とは一度も会えていない(・・・・・・・・・)のだから。


「あーあ、レヴィントンにいる上級魔女はいいわよねぇ、男とイチャイチャできて」

「機械帝国にもイイ男いればいいのにねー、妖怪みたいなのばっかなんでしょ?」


 あ、あはは。相変わらず酷い言われようだなぁ。まぁそういった嘘が信じ込まされているからこそ、戦争は未だに終わらないんだけど。


 やっぱりこの国の人たちにとっても男性は憧れの的みたいだ。一部では魔法が使えない能無しとして卑下する人もいたけど、大半は異性として肌を重ね、伴侶となる夢を見ている女性が大多数だった。そう、機械帝国の男性と全く同じなんだ。


 男不足の魔法王国、女不足の機械帝国。和解するには最高の条件がそろってるんだけどなぁ、色々とそうはいかないんだろう。特に権力者にとっては。



 夕方、聖都の一つ手前の町まで辿り着き、乗せてきた人たちに謝礼を貰って別れた後、宿を取って腰を落ち着ける。ふぅ、明日はようやく聖都レヴィントンだ。


「すてあー、おなかすいたー」

 ナーナがヒザに乗ってそう甘えてくる。うーん、ホントこの子どうしたもんか……。

 ここまで一緒に旅をしてきたけど、結局彼女が何者なのかは分からずじまいだ。他の人には認識すらされていないし、ごはんを食べはするけどトイレは全然出さない。一体どこに消えて行ってるんだろうか……?


 もちろんここまでの道中にもナーナみたいな不思議な女の子は見なかったし、そんな存在を知ってる人もいなければウワサにすらなっていなかった。魔法王国に来て、ここの誰もが知らない謎の少女を僕だけが(・・・・)知っている。やっぱこの子、世界の魔力(ナーナ)か何かに大きくかかわる存在なんだろうか。


     ◇           ◇           ◇    


 翌朝、僕とナーナは街を出発し、いよいよ魔法王国の首都であり、この体カリナ・ミタルパの故郷でもある聖都レヴィントンへと向かう。


 主な目的は4つある。


・まず魔法王国の首都を見て、知って、経験する事。


 いつか戦争を終わらせるために、両国の事情を知っておくのはまず前提条件だから。


・聖母魔女マミー・ドウルチ様の親書を、女王陛下側近のミールさんって人に渡す事。


 これはエリア810配属中のカリナが、一度聖都に戻るためのいわばタテマエの理由だ。ミールさんはマミー・ドウルチ様の知り合いで、女王陛下の4人の側近の一人『天輝く陽の魔女』と呼ばれる重要人物らしい。


・この国で子供を成す為のシステム『魔法胎樹』を見学し、理解する事。


 我が機械帝国の『人工胎内機械』の魔法版ともいえる、いわば体外受精出産魔法。魔力を持つ樹『魔樹』を使ったそのシステム。それはどうしてなのか女性しか(・・・・)生み出す事は出来ない。こちらの人工胎内機械は男性しか生まれて来いのに。

 だからもしその理由が分かれば、あるいは両国の抱える男女比偏りの問題が解決するかもしれない。


・そしてこの国で少数の男性が、どんな生活をしているのかを知る事。


 機械帝国で信じられているのが、この魔法王国にいる男性たちは魔法で洗脳されていて、人格を破壊され子種を提供するだけの存在になり果てていると言われている。

 でもカリナ達が言うには、男性は希少な存在としてとても大事にされているらしい。もしそうなら、その事実をいつか帝国に広く伝えることが出来れば……。


 比較的森の少なくなった山あいを抜け、ゴレム馬車はなだらかな丘の続く平原へと抜け出した。そして……その先にある物を見て僕は……絶句した。


「うわー! おっきぃ木だよぉー、ねぇステアー」


 あんな、あんな巨大な木が存在する物なのか。

 僕は言葉が出なかった、その常識を遥かに超えた、まるで山の高さまであるような大樹を、遥か先に見据えて。


 枝の天頂は雲を突き抜け、その幹は直径が何キロあるのか想像もつかない。根はまるで小山のように末広がりに足を延ばし、伸びた枝は四方に広がって、空を覆い尽くさんばかりに緑のせせらぎで満たしている。


 そして、よく目を凝らしてみれば、その木に小さな羽虫のように飛ぶ点が、数えきれないほどたかっているのが分かる。あの砂粒のような羽虫ひとつひとつが……魔女、だというのか。



「あれが……魔法王国首都、聖都レヴィントン!!」


 ――今日、その地に初めて、機械帝国の兵士が足を踏み入れる――


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