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第12話 アトン大将軍の胸の内


 とんとん、とんとん、とんとん……


 重~い空気の中、戦車の履帯(キャタピラ)の上に腰かけたアトン大将軍が、その履帯の上カバーの鉄版を指で叩く音だけが響いていた。


 そして、そんな彼の前には、帝国兵士、百余名全員(・・)が地べたに座り、地面に額をこすりつけて土下座しているんだから、なんともシュールな絵面だなぁ、と私、カリナは思う。


「なにとぞ、なにとぞ……この事は本国にはご内密に、お頼み申しますッ!!」


 司令官のイオタさんって人が一度顔を上げ、そう言って再び土下座する。そう、今回の作戦の最後で、聖母様が作った巨大竜が倒れた際、隠れ村を隠していた衝立(ついた)てをなぎ倒してしまい、その全容をさらけ出してしまっていた。


 つまり、全部ばれてしまったのだ……このお堅そうな軍人さんに。


 こうなっては方法は一つしかない。このアトン大将軍さんをこっち側(・・・・)に引き込んで、知らぬ存ぜぬを通してもらうしか。


 と、いうわけで帝国兵全員でこうして懇願してるんだけど、ねぇ。


 案の定、大将軍お付きの兵士であるガガラさんって人が怖い顔で怒鳴りつける。

「ふざけるなよ! 貴様らのやったことがどれほど重罪か分かっているのか! スパイ行為に虚偽報告、軍人規律違反に国家命令違反……いや、敵に(くみ)したとして反逆罪まで相当するんだぞ!!」


 そりゃそうだ。最前線で敵と戦ってるフリだけして、実は仲良くしてましたなんて、本国を丸ごとダマしてたんだから……魔法王国(ウチ)でだって重罪モノだよ。



「まーまー兵士さん、そう怒らないで、お茶でも飲んでリラックスリラックス」

 見かねた私の所属チームの副リーダー、ワストさんが笑顔で紅茶を持って彼に近づく。

 「いらん!」と一歩後ずさる彼に、いつの間にか背後に降りてきた隠し村のあの赤服の魔女さんが、後ろからハグを決めて色っぽく迫る。


「こちらイケてるわねぇ~、どう? 堅苦しい話は抜きで、私と楽しまな~い?」


 ちなみに私たち魔女は一歩引いた所から事の成り行きを見守っていた。隠し村の人たちもカンバンが倒れたことで事情を察して、遠巻きに様子をうかがっていたんだけど……ちょっと無茶するなあの人って見てたら、リーダーのリーンさんが私に耳打ちして来た。


「ケニュってもう告白連敗中だから、かなり焦ってるわねぇ、こんなトコまで来て」

 後で知ったんだけど、あの赤服の魔女ケニュさんって元リーンさんの同期で、早々と戦死扱い(りだつ)したみたいなんだけど、隠れ村に行ってからもなかなかナンパに成功しなかったらしい。


 あー、道理で私がステアとデートした時に当たり(・・・)がきつかったわけか……。


「ひぃっ! は、離れぬかこの魔女があぁぁっ!!」

 ほら、空気読もうよケニュさん。帝国にいる人はまだ魔女を怖い存在だと思ってるんだから。


「少し、黙れ!」


 低い、それでいて威圧感のある大将軍様の一括に、ガガラさんもケニュさんも「は()っ!?」と固まる。



      ◇           ◇           ◇    



(さて……どうしたものか)


 ワシ、アトンはこの現状をどう処理すべきか、一向に出ない結論に頭を悩ませていた。


 まさかこの最前線であるエリア810で、わが帝国兵士が敵と融和していたなどと誰が想像するであろうか。しかもそれはもう長年にわたって続けられており、戦死扱いになっている者たちが村を築いて、そこで魔女たちと暮らし、大勢の者が結婚までして家庭を持っているなど……本国の法律に照らし合わせれば、実質には反乱独立国家の樹立にすら成りうる。


 しかも今回こ奴らは魔女とグルになって、私たちを騙して本国に追い返そうとしておったのだ。そのためにこんな戦闘の演出までしおって……

 騙されて型にはめられそうになった自分とこ奴らに対して、怒髪天を突かんばかりの怒りが湧いてくる。ガガラが激怒するのもむべなき事だ!


 舐めた真似を、ふざけた真似をしおってッ!!!



 だが、ここで下手に彼らを否定すれば、彼らも私らを生かしては返すまい(・・・・・・・・・)。秘密を知られた者を生かして本国に返せば、彼らはもとよりこの地の魔女どもにとっても不都合なのだ。

 なのでこちらの出方次第では、口封じをされるのは目に見えている。


 ここはひとつ冷静になって、この事態をどう収めるかをよく考えねばならん。



「ここでは男と魔女が、ずいぶんと仲が良いではないか」

 ガガラとそれに絡んでいた魔女に、やや皮肉気にそう言ってみる。顔を引きつらせて直立するガガラに、その赤い服の魔女が作り笑いを浮かべながら抱き着いて、頬刷りしつつ返す。


「そ~なんですよぉ大将軍さまぁ~、ケンカなんて止めて仲良くしましょうよぉ~」

「よ、よせ! 離れぬか!」

 そう言って困惑するガララだが、無理に離れようとはしない……むしろ満更でもなさそうではないか、こ奴。


 まぁ無理もあるまいな、本国でここまで男女がべたべたするなど、一部の貴族にしか経験できないであろう。現に他の私の随員三名は、そんなガガラを羨ましそうなジト目で見ておる……。



「まぁ、いつまでも本国のウソに騙されることもないでしょう」

 そう言って魔女どもの中から一歩前に出たのは、あの老婆マミー・ドゥルチだ。かつて戦場で幾度も戦った宿敵であり、何人もの帝国兵を消し去った恐るべき悪魔が、今はにこやかな表情でそこに佇んでいる。


「ウソつき共に言われても、無下に信じることは出来ぬな」


 こ奴らの言い分では、本国が伝える「恐ろしい魔女」の話はいわば政治宣伝(プロバガンダ)であり、向こうの魔女たちはむしろ男に憧れの念を抱いておって、親しいお付き合いを望むものが大多数だそうだ。


 また、魔法王国でも「帝国の男は残忍で、女を『子を産む機械』としか見ていないケダモノ共」と教えられておるらしい。愚かなことだ、魔女に与しない女性は国の宝だ。

 私もかつて戦場で捕らえた魔女たちを本国に送り、公正施設でそんな風評を払拭させて、幾人もの女性を帰化させて来た。そして彼女たちは貴族に娶られ、幸せな人生を送っておるのだ。


「あ、昔私が捕虜にした帝国の兵士さんも、本国で元気に暮らしてますよ」

 ワシの主張に対してのそのマミーの言葉に、雷に打たれたような衝撃を受け、思わず腰を上げる。


「それは、本当か? あの砦で行方不明となった者たちが……ガイナ中佐や、マルナレア軍曹もか!?」

 かつて戦場で敵の魔女に捕らえられ、その後は消息不明だった戦友たち。おそらくは残忍な魔女の手にかかり、無残な屍を晒したであろう者たちが?


「マルナレアさんって確か、モブル地方のハーレム王のこと?」

「ガイナ……ひょっとして王宮アイドルの」


 周囲の魔女たちから心当たりを聞かされて愕然とする。マルナレアといえば「女など所詮は敵だ!」と常に主張していた女嫌いの鬼軍曹であったし、ガイナ中佐は目立つのが苦手で、常に後方で作戦を発案していた凄腕の軍師だったというのに……


 その二人が、ハーレム王にアイドル……とな?


「残念ながら戦場じゃあ魔女も兵士も大勢死んだのは事実。なのであなたがこの事実を受け入れられないのは分かるわ。私もここに来た時はそりゃあ、ねぇ」


 あの(・・)マミー・ドゥルチがしみじみそう語る。そうだ、確かに我らはかつて殺し合いをしていた、憎き敵国の先兵である魔女どもと。


 だが、一皮むけばその中身は普通の女子とそう変わらぬものだったのか? プロバガンダを吹き込まれ、我らを極悪人に仕立て上げられたが故に、奴等も死に物狂いで我らを殺そうとし、彼女らのその姿がまた我々に、言い聞かされていた悪魔のようなイメージを定着させていた、というのか。


 ありえぬ。ワシは目を閉じ、皇帝陛下の訓告を頭の中で反芻する。


『魔法は(よこしま)なる力である。努力せず無条件に、そして女性だけに与えられる差別の力。男性がいくら努力しても、真摯に研究を重ねても決して得られず、女性のみが生まれた時から与えられている、不平等(・・・)の象徴である!』


 そう、問題はそこなのだ。魔法と言うとんでもない力が、女には何も意識せずに使えて、男には人生の全てを捧げて努力しても決して使えぬ。だからこそ魔法王国との融和などあってはならぬのだ。

 魔女どもは必ず、心のどこかで魔法が使えない男どもを軽蔑しているはずなのだから。


 このエリア810のように常に緊張が続いている地ならよいであろうが、もし機械帝国と魔法王国が融和などすれば、平和な時の中で必ず男は役立たずとなるであろう。


 空を飛ぶ力、無から火を生み出す力、そして風を、土を、植物を操る力。人類が望んでやまず、だが決して手に入らないハズの力を、女だけが(・・・・)無条件で手にしている世界なのだから。

 なればこそ、我らは機械化学を発展させてきたのではないか。


「あなたは査察に来たんでしょう? ならしばらくここに滞在して、ここの暮らしをつぶさに見て回るといいのではなくて?」

 マミーの言葉にふむ、とアゴを撫でて一考する。なるほど今すぐに結論を出す必要は確かに無いか。


 時間を稼げば、部下たちと共にここを無事脱出するチャンスを探れるかも知れぬし、逆にこ奴らが何を仕掛けてくるかで意図を読む事も出来る。

 魔女どもと融和した腑抜け兵士たちに活を入れられるかもしれぬし、またあの隠し村とやらをつぶさに調べて、魔法王国の様々な情報を得られる可能性もある。


「お主の指図は受けぬ。だが、それも一興ではあるな」


 今日は一度引くとしよう。だが、魔女たちとの融和などあり得ぬことに変わりなど無いのだ。奴らが理不尽な『魔法』を使う限りは。



 そしてかつて死んでいった仲間たち、我らが殺した魔女達がいる限りは――


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