第0話 日常の一幕
ガン、ガキンと硬いもの同士がぶつかる音、響く足音と怒声、人ならざる大きなモノが起こす風。そのどれもが、今の自分を勇気と興奮と少しの恐怖でアドレナリンを放出させる。
「おい!DPS足りてねーぞ『一撃屋』!儀式はまだかかんのか!?」
「後5秒で!」
「壁役、防御バフ!」
「もうやってる!【全体防御力上昇】」
俺はこの瞬間が好きだ。身を削り、時間を削り、効率を高め最高の火力を放つその瞬間が。
「充填完了。照準… 合わせた」
目の前の壁役が横に飛びよけた刹那、怪物が大口を開け炎を燻らせた少し上、額にある宝石に向け銃口を向け引き金を引いた。轟音と閃光を響かせて放った一撃は正確に宝石を打ち抜き、怪物は炎を吐き出すことなく体を横たえた。
「よーし良くやった『一撃屋』。やっぱ野良入れてやるならお前とが楽で良い」
「いやいや、こっちは迷惑かけてる側なんでいつも助かってます」
お決まりのファンファーレを聞きながら軽口と挨拶、報酬分配をし俺は自分のホームへ戻った。
ここはラグナロクサーガオンラインというVRMMOの世界。魔法と科学が発展した世界で第2のラグナロクが起きたという世界観のちょっとダークなゲームだ。この世界での俺は古代文明の銃を現代で再現した「魔銃」を扱う職業をメインに楽しんでいる。ステータスに表すと…
Name アポロ Lv.100 (sub Lv50)
Job 狙撃手Lv.10 偵察兵Lv.10 上級銃士Lv.20 銃士見習いLv.30 軽戦士Lv.14 魔術師見習いLv.1 特務兵Lv.10 白い死神Lv.5
subj 上級銃器整備士Lv50
となる。見ての通り銃火器大好きな厨二病編成。
「まぁ、銃ってかっこいいし?」
その上選択スキルも武器も装備もほとんどが一撃の火力に特化させたロマンビルド。サブ職業も自分の武器を整備したり作ったりできるから。
「銃オタクって訳じゃなくてニワカも良いとこだけど… 」
それでも初めてサイトのランキングを見ずに選んで、下方をくらおうが、新職業が出ようが貫いたのだから弱かろうがロマンと誇りで今後も使い続けられる。
「それにロマン砲の動画はインプレッションが地味に良いし」
そうやってぶつぶつ妄想と独り言を垂れ流しながら、整備と弾の作成をしてるこの時間も好きな理由だ。どう工夫しよう、どう火力を盛ろう、見た目は、性能は、どんな素材を使って、どんな敵を倒すために、考えは広がってワクワクが止まらない。
「だからこそ楽しいんだよな」
整備を終えて、銃弾を作り始める。今回は倒したのは2シーズン前に実装された高難易度レイドボス。難易度は火力のインフレと最大レベルの上昇で落ちてはいるが強敵だった。それにドロップ素材も報酬も美味い。しかし一度倒したら一週間は同じボスは倒せないようになっている。
「次は炎じゃなくて氷かな… 。あれならロマン砲撃たなくても普通のスナ運用で貢献できるし、人も集まるかな… 。でも、撃ちたいよなぁ… ロマン砲… 」
そう考えながらハンドガン用のデバフ弾を片手間で作る。
「ロマン砲撃つなら風竜か。でも昔みたいに綺麗に倒せるかなぁ… 。でも素材的にももうちょっとストックが欲しいし、風倒すか!」
俺の夜はまだまだ続く。現実が嫌な訳じゃない。現実に友達だっているし、必死こいて大学にも入った。単位はやばい時もあるけど頑張ってる。でもこのゲームが好きなだけなんだ。ハマってるし、趣味でもあるし、本気でもある。バイトもこれのために始めたし、おかげで友達も増えた。布教のおかげかレベル帯が違うけど、キャリーしたりワイワイやったりもできて充実してる。
そう考えながらの作業は熱が入り、夜が更けていく。
そろそろ寝よう。いやまだもう少し対策を… 。
課題しなくちゃな。まぁ楽なやつだし授業中にやるか… 。
せっかく夜更かししてるし、全銃火器整備するか…!。
明日今日のプレイ映像を見せて…… 。
なんか…… 体がふわふわするな……… 。
結構設定とかふわふわしてるとこが多いのでツッコミどころがあれば遠慮なく突っ込んでください!