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天空の島

 関わる期間が短いものでも、知ろうと思えば、だいたいの事は知ることができる。対して、長い期間を共に生きたとしても、見ようとしなければ、知らない事の方が多くなっていく。

 時間ではなく、好奇心の問題なのだと気づくのは、これで何度目だったか。


 第十騎士団が拠点にしている屋敷が見えてきたため、後ろに乗っているカエデ殿へ声をかける。

「カエデ殿、あれが第十騎士団の拠点です」

 雲一つない空を、悠々と移動している小さな島を指差した私の後ろで「まさかの天空島」と、驚きや関心が入り混じったような感想を述べているカエデ殿に、当時の事を思い出す。

 彼の規格外に慣れてきた私は勿論、陛下たちも度肝を抜かれ、各国からの非難や疑惑の目に対処する意味合いも込めて「国境から出ることだけは無いように」と、念を押してくる大臣の顔が怖かったらしいエドガーに泣きつかれ、なぜかエルリアに睨まれた。

 そんな思い出に浸りつつ、島の少し手前で一時停止した私は、魔法行使のために右手をかざす。

「この辺りで合図を出さねば、焼き殺されますので、覚えておいてください」

「セキュリティが完璧ですね」

「空中での魔法は反動がありますから、振り落とされないよう、しっかり掴まって下さい」

 感心しているカエデ殿を微笑ましく思いながら、手の平サイズまで集めた水の塊を島に向ける。

「アクアバレット・ドラゴン!」

 掛け声とともに放った水の塊は形を変え、小ぶりながら雄々しいドラゴンとなって、島へ直進する。

 それを見たカエデ殿に「え、落とそうとしてません?」と、勘違いされていた次の瞬間、水のドラゴンは島から投下された網で捕らえられ、島の中へと回収されていく。

 本来であれば、投網等の物理的なものは素通りできる仕組みなのだが、合図の為に改良した。

「大丈夫なんですか? あのドラゴンちゃん」

「変に力を入れたりしなければ、ゆっくり萎んでいくだけですよ」

「風船かな?」

「お待ちしておりました。グラニエール団長」

 合図であるドラゴンを送り届け、しばらくすると島の方から煌びやかな刺繍が施された絨毯に乗った副団長が現れた。

「お久しぶりです。アリスティア殿」

 第十騎士団の副団長・アリスティア殿に促され、ホウキから絨毯の上へ乗り換える。

「初めまして、カエデ・ヒグラシ様。

 わたくしは第十騎士団の副団長を務めています。アリスティア・B・ソーヴィニヨンと申します」

「こ、これはご丁寧に、カエデ・ヒグラシです!」

 公爵家の傑作。貴族令嬢の鑑。騎士団に咲く大輪の華。などなど称せられるアリスティア殿の挨拶に、ぎこちないながらも同じ動作で対応するカエデ殿の姿に目頭が熱くなる。

 マジックポーチに移動用のホウキを入れ、代わりに取り出したハンカチで目元を拭っていたら、絨毯が動き出す。慌ててカエデ殿に目を向けると既に座っていたので、安心した。


 島の中は初めて見た時と同じく、奇想天外な内装になっていた。

 床や壁、天井に至るまで大理石のようなツヤを持つ石で作られており、冷たい印象がある中で感じる温かい伊吹に凍えた体がほぐされていくのを感じる。

「お話の方は、ウェルシュ大臣から伺っております。大変な思いをされたようで……」

 ホッと私が一息ついていると、アリスティア殿がカエデ殿に話を振った。

「いえ、わたしなどより、サクラちゃんやライアンさんの方が大変な思いをしていますから」

 外側からみた島のイメージと中の様子が違う事に驚いていたカエデ殿は、絨毯の運転をしていたアリスティア殿から振られた話に謙遜の言葉を返す。

「グラニエール団長の苦労と比べられては、この国の誰一人として勝てませんよ」

「た、たしかに……!」

 自分と他人の苦労を比べても意味はない。という事か、さすがはアリスティア殿。見事な切り返しに納得したらしいカエデ殿の横で、胸に沸くモヤを適当に追い払った。

 私は別に苦労などしていないと思うが……。

「エドガルド団長、グラニエール団長とカエデ様をお連れしました」

 団長室。と書かれている扉の前で絨毯から降り、中で待っているであろうエドガーへ声をかけたアリスティア殿が扉に手をかける。

 その時、中から慌てて制止する声と大きなものが倒れる音が聞こえた。

「エドガー!」

 何事かと思い、アリスティア殿を先頭に突入した私たちが見たのは、大中小と揃えられた私の人形に埋まっているエドガーであった。

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