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均衡

 二週間という長い休養の中で気づいたのは、自分が思っていた以上に職場を好んでいるということ。そして何より、今の職務内容に不満が無いということ。

 今回の一件は自分のやりがいを再認識する為ではないか。などと、不謹慎にも思っていた。


「他国に召喚の事がバレたから、明日あたり送り出せ」


 職場に復帰を果たしてから二日。

 カエデ殿たちの今後について魔術師殿と話し合っていたところへ、真顔の大臣を伴って現れた第一王子から出された要求に、左の義手を握りかけた。

「殿下、彼女たちは今ようやく魔法を使える辺りまで来たところでして、実戦はおろか。模擬戦すら経験していないのですが?」

「実戦経験など、道中で積めばよかろう。模擬戦なら今日にでもすれば良い」

「彼女たちのスキルが戦闘向きでは無いことは、殿下もご存知でしょう?」

「だから何だ。スキルは使えなくても戦う方法など、いくらでもある」

「殿下―― それなら貴方が行けばよろしいのでは?」

 無意識に本音が出てしまった私を、その場から連れ出してくれた魔術師殿と第一王子を宥めてくれた大臣には、感謝の言葉しかない。


 召喚の儀は、宮廷魔術師を含めた八人の魔術師と召喚士を三人、加えて百人分の魔力を代用する魔法石に空間の裂け目を塞ぐ鏡の糸、質が良く豊富な魔素に包まれた人がいない広大な土地。

 以上を揃えることでようやく実行することができる。

 一つでも欠けていれば、良くて不発。悪くて現場にいる全員が土地ごと空間の裂け目に呑まれる。


 カエデ殿たちと挨拶をした三か月前。

 実際に召喚の儀が行われた地下室と首謀者を含めた当事者たちの紹介を受けたが、下手をしたら王国が丸ごと無くなっていたかもしれない事実を前にして、冷静さを失った私は「せめて鏡の糸は入手しておけ!」と、感情のまま首謀者の侯爵を殴り飛ばしてしまった。

 首謀者を含めた共犯者たちの処分と裂け目の調査。何よりもカエデ殿たちの衣食住を確保することに追われ、後回しになっていた魔法石の所有者が王族だということを聞いたのは、今朝方である。

「王家の宝物庫から盗まれたのか、持ち出されたのか」

「どちらにしろ問題だな」

 そんな話をしている時に、第一王子からの要請。

「第一王子とは言え、あの殿下に宝物庫のカギが開けられるとは思えないのだが……」

「そもそも第一王子とは言え、すでに退位している先代の子だからな」

「私の愛しい子らは、まだ十歳未満だからなぁ」

 中庭まで移動した私と魔術師殿が頭を悩ませていると、まだ一歳になって間もない末の殿下を抱えたルクリス様が現れ、慌てて膝をつく。

「情報が流出した原因は、やはり第八騎士団ですか?」

「あそこの副団長は口が軽い上に、親族が他国へ嫁いでいるからなぁ」

 困った様子の陛下に「とっとと解雇すれば良いだろうに……」と、魔術師殿の呟きが刺さる。

「オルレア団長も人が好いからな、かつての恩人に強くは言えんのだろう」

「それとこれとは別です。国の重要機密に関わる事ならば、なおさらです」

 何とも歯切れの悪い陛下に無礼を承知で進言すると「見目のわりに厳しいな。お前は」と、苦笑交じりに返される。どういう意味だろうか。

 そんなに生易しい顔をしているのだろうか。と、不安に駆られる私に末の殿下が手を伸ばしてくる。

「フレデリックはライアンが好きだな」

「恐縮です」

 陛下に差し出されたフレデリック殿下を受け取り、上機嫌な声と輝く眼を向けられ、心臓のあたりを掴まれた感覚に襲われる。

「これが、バブミ?」

「どこの言葉だ」

「母性本能の方が分かりやすいですよ。ライアンさん」

 ゆっくりと立ち上がり、姪が生まれたばかりの思い出に浸っていた私が視線を上に向けると。ホウキに二人乗りをしているエドガーとカエデ殿が降りて来た。

「私は男なのだが?」

「そんなことより、サクラちゃんを知りませんか? 訓練場にいないみたいで……」

「もうそんな時間か。王子の襲来に気を取られてしまったな」

 納得はいかなかったが、カエデ殿が尋ねてきた内容に「そんなこと扱い」を甘んじて受け入れた矢先、魔術師殿の言葉に嫌な予感がした私は、服の飾りで遊んでいたフレデリック殿下を少し強引に陛下へお返しし、来た道を引き返すために歩き出す。

「ライアンさん、どうしたん――」

 申し訳ないと思いつつ、エドガーの呼びかけには応じないまま急ぎ足で廊下を歩く。

 訓練場と中庭の距離は意外とないはずなのに、この時は何故か遠く感じた。

三ヵ月で出来た事

・言語の学習《五ヶ国分》

・各国の文化とパワーバランス、司法の差異《五ヶ国分》

・魔法とスキルの基本知識

・護身用の武器選びと護身術《初心者向け》

・価値基準

・テーブルマナー

・魔法属性の検査

現在

・魔法の特訓

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