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歯車

 他責思考な兄は無責任この上ない極悪な性格をしていて、思いやりの心を丸ごと母体に置いてきたような人格をしていて、才能なんてない癖に幼い頃の約束とか言って理想ばかり追い求めた結果、誰からも見捨てられて当然な輩だ。

 だから―― この世界を救ったのも、同姓同名のダレかだと確信している。


 天空島の襲撃事件から一週間が過ぎ、その間ずっと意識を失っていたライアンさんが目覚めたと聞き、忙しい団長たちの代わりに治療院を訪れた拙者。病室から抜け出そうとする彼の逃亡を阻止する為、魔王討伐の旅路を取材する事を思いつき、担当医からも許可を得たのでメモを用意する。

「当時は姉が健在だったのと。自宅で死体処理するよりも旅先で行方不明になってくれた方が体裁を保てると思ったのでしょうね。勇敢な死を遂げてくれたなら家の格上げにもなりますし」

「おねえさん、さぞかし素敵なひとだったんでしょうね……っ」

 重たい背景と楽しい景色の落差で風邪をひきそうになる中、勇者が兄と同姓同名だと知った。

 他責思考な兄とは違い、責任感が強い勇者は臆病で頼りない部分がありつつも勇敢で頭の回転も速く、覚えも良いのかライアンさんとの勉強会も順調で、言語の問題も余裕のある会話なら問題ないほどで教える彼が学ぶ点も多かったそうな。

「同じ名前なのに、ここまで違うと一周回って呆れますね」

 空気でも吸うかのように口から出た言葉が楽しかった会話を一瞬で止める。

 やってしまった。と気づいた脳裏を過るのは、何とも言えない表情を浮かべて離れていく友人たちと悲し気な眼差しを向けてくる伯母の姿。

「カエデ殿は兄が嫌いか?」

 宝石と遜色ない紫の瞳がコチラを見つめている。

「嫌いですよ。以前にも話しましたけど、無責任で思いやりが無くて自分の事ばかりで才能も無い癖に夢を追って自滅するようなクズですから……。良い所なんて悪運くらいじゃないですかね?」

 母を自殺に追いやったくせに被害者面して助けを乞い、大事にされてきた恩を仇で返すようなクズの中のクズ。それが拙者の兄―― 日暮 葉一の全貌だ。


「貴方の妹は、貴方の事を唯一の家族だと言っていましたよ?」


 過労と戦闘の疲れで頭がおかしくなったんだろうか? 妙な事を言い出すライアンさんに動揺して「何を言い出すんですか」と尋ねてしまう。

「貴方の妹は、誰よりも貴方を認めていたし、尊敬していた」

「拙者は二人兄妹ですよ?」

「貴方の妹は、ろくでもない家族から守ってくれた貴方と伯母に感謝していると言っていた」

 何を言っているのかが理解できない。彼は誰の話をしているのだろう?

 父方の伯母を除き、祖母を筆頭に頭がおかしい拙者の家族は長男である兄を優遇して母と拙者を蔑ろにしていて、そのせいで母は自殺未遂を……どうして母は自殺しようとしたんだっけ。そうだ愚兄が素行不良になって呼び出される事が増えたからで……どうしてそうなったんだっけ。

 そうだ。拙者が小説で賞を得た途端に周りが手の平返しをしたから……小説って何だっけ。

 覚えのない記憶の断片が脳内をかけ、激しい頭痛に見舞われる拙者を見つめるライアンさん。


「ヒグラシは、引き取られる前の苗字だと聞いています」


 唐突に切り出された言葉で思考が完全に停止する。

「動きやすいからと男物を着ていたのが功を奏した、なんて聞かされた日は頭を抱えましたよ」

 再起動した思考で聞くライアンさんの声は心地よい一方で、漠然とした不安を覚えさせられる。


「ヨウイチ・ギンジョウもとい、カエデ・ギンジョウは―― 私の妻・イチョウです」


 以前、彼の奥さんが亡くなった事を聞いた。

 その奥さんが異世界人であることは半信半疑だったけど、彼の異世界人に対する態度を見ると何となく納得できたし、与えられた副作用を考えれば悲劇的な結末も理解できる。

 だけど、それなら……それならば、あの子は?

「異世界人の力を残したい派に彼女の事がバレれば、ロクなことになりません。ごく僅かな……旅仲間と私の姉とジュリア、そして師であり当時の当主であるロマネコンティ辺境伯だけに事情を話して、ささやかな式を挙げました」

 あの日は本当に幸せだったなぁ。と今にも泣きそうな顔で呟くライアンさん。

「ライアンさんは、ロマネコンティ家を憎んでいるんですね」

 憶測で零した拙者の言葉に「何を言っているんですか」と噴き出した彼は、一言。


「全てですよ」


 口元で笑みを浮かべる彼の、宝石とも見まごう紫の瞳は暗い光を放っている。

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