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解釈違い・1

 叔父のところにカエデ様が私用で訪れてきたことがある。

 見舞いに来てくれた時と同様、穏やかな訪問に感極まっているワタクシやジュリアを置いて何やら重要なイベントを開始していた二人が気になるも、タナバさんに連行されて途中退場。

 しばらくして、ジュリアを生贄に舞い戻った先で見たのは叔父の楽しそうな表情だった。


 職場見学という名の人員確保を行う学校行事で、なぜか希望していた場所とは真逆の所へ送られただけでも腹立たしいのに。家庭内の事を根掘り葉掘り聞かれ、ブチギレ寸前だったワタクシが見上げた先には無数のドラゴンが飛び交っておりました。

 いよいよ国が終わるんですの?

 ジュリアと共に硬直していたワタクシの所へ、エロガキが窓を突き破って登場なさいましたわ。

「危ないですわね!」

「ごめんなさい。あと、ライアンさんが危機的状況なので修復は後ほどで!」

 聞き捨てならない言葉を残して医務室まで飛び去って行くエロガキですが、ここは城内。騒ぎにならないはずがなく。曲がり角で姿を消してから数秒後、凄まじい破壊音と怒声が響いてまいりましたわ。


 エロガキもとい、エドガルドが残していった台詞が気になったワタクシが医務室を訪れるとカエデ様がベッドに横たわっていて驚きました。

「カエデ様?」

「あ、アンジェラ様。お元気そうで何より……」

「何がありましたの? エロガ、えどがき―― エドガルド団長から気になる事を聞きましたが」

「え……言っていいのかな? 天空島がワイバーンから襲撃を受けまして」

 躊躇しながらも説明してくださったカエデ様の話から推測するに、ワイバーンたちを誘導した人物と天空島の内部に潜入した裏切者がいるようですわね。このタイミングで事件を起こすという事は、和平に反対する輩か。別の目的を遂行する為のカモフラージュか。両方かですが……。

 意外と猪突猛進な面がある叔父様の事ですから、単身で突撃して重傷を負ったのでしょう。

「この件に関して、エドガルド団長は何と?」

「あぁっと、その……今しがた目を覚ましたばかりでして――」

 歯切れの悪いカエデ様の返事を聞いて思わず「は?」と、苛立ちを露にしてしまいましたわ。

 ただ、この苛立ちはエロガキに対してではありません。

「ジュリア、第十二騎士団の拠点は?」

「南の地区と東の地区の間に立てられた治療院ですが……。如何なされましたか?」

「たまにはワタクシから尋ねる事もしないと不平等ではありませんこと?」

 少し前から抱いていた不信感が限界を迎えた瞬間でしたわ。


「貴女の推し活について少々お話ししたいことがございますの」


 意識を失った叔父様の容態と友人たちの事もあって結局、突撃訪問をすることはできませんでしたが、城内の騒ぎが落ち着てきた頃を見計らい、人員として駆り出されていたサクラさんに声を掛ける。

 ワタクシの第一声からのっぴきならない事を察した彼女に連れられ、人気のない場所へ移動する。

 話の内容からジュリアには叔父様の看病という名の待機を命じておきましたわ。

「貴女、カエデ様のことをなおざりにしていません?」

 率直に告げたワタクシの疑問に対し、そんなことはない。と反論するサクラさんですが、答えるまでに一瞬だけ間と動揺が見えた。

「叔父様の事を想って行動してくださるのは喜ばしいのですが、カエデ様も命の危機に瀕する立場なのでしょう? 本来のサクラ様との関係は存じませんが、だいぶ関心が薄いように思えてなりません」

 前世に加え、社交界で鍛えに鍛えた観察眼と話術を駆使して問い詰めれば、観念したように「アンジェラ嬢も全キャラが好きってのは稀でしょう?」と、肩を落とすサクラさん。

「そうですわね。恩を仇で返すクズキャラなんて特に嫌いでしたわ」

 彼女の姿に、昔の自分が重なって見える。

 前世の事を思い出して間もない頃、敵も味方も関係なく威嚇していたワタクシに根気強く向き合ってくれた叔父の諫言は今世の指針になってますわ。

「破滅の原因は―― 叔父様にあるのでしょう?」

 それはそれとしてハッキリさせなくてはならない事があるので、遠慮なく指摘させてもらいます。

「最初に聞いた時から違和感がありました。

 たしかにエロガキは叔父様を尋常じゃないくらい慕っていますし、時々こちらがドン引きするくらい愛着をみせてくれやがりますわ」

「ひょっとして今見ている以上の逸話でもあるんですか?」

 むしろ無いと思っているんですか?

 団長会議では必ず隣に並び、第三騎士団に用事がある時は必ず自分から訪問し、国のイベントや休みの日は必ず誘いを入れ、他国へ出た時は必ず土産を購入し、祝い事では必ず声を掛けるほど一途な様は与えられている当人も気後れするほどに情熱的で。

「だからこそ、彼が叔父様の気持ちに反するような行為をするとは思えませんの」

 異世界人に対して並々ならぬ感情を抱き、ある意味で特別視している叔父を見てきたのだから片思いしている彼が蔑ろにするとは思えない。解釈違いも甚だしいですわ。


「以前、貴女は叔父様のスキルについて「そういう設定」と言ったそうですわね……?

 つまり叔父様のスキルは別の意図で生まれ、本来の使用方法も違っていた。それ自体は本編で何の問題もなかったのでしょうね。-- 番外編(このせかい)を除いては」


 世界の末路を聞いた時点で尋ねるべき事だった。それをしなかった自分の落ち度は認めましょう。

「引き金ではなく、導火線でしたのね」

 例えで答えを示すワタクシに対し、黙り込んだままのサクラさん。沈黙が答えである事に気付いているのかいないのか知りませんが、突きつけられた現実を受け入れる。

「おおかた、使用人が訪問できた理由にカエデ様が関わっていたのでは?」

「アンジェラ嬢は、探偵にもなれそうですね」

 ちゃかすような言い方にイライラが増し、重要な点を話してくれない事への嫌悪感が生まれていたせいもあって、気が付いたら平手で彼女の右頬を打っていて自分でも驚きでしたわ。


 西の王国で真実を知ってから叔父が休んでいる姿を見ていない。

 もしかしたら職場で短いながらも休息しているかもと思ったけれど、真面目が服を着ているような性格とスキルの件が本当なら無意識で《そういう状態》になっている可能性が高い。

 もっと言えば、寝室から飛び出すほどの悪夢に襲われているとタナバさんから聞いている。

「貴女のソレは、ただのオアソビですわ」

 差し込んできた赤い日差しで染まる室内は、さながら血の海のようでゾッとした。

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