鉄槌
少々耐えがたい内容も入ってます。
存在自体を疎まれ、両親と姉に降りかかった災いの種として殺されかかったのを機に世話係の勧めで騎士団へ入る事を決めた際、本家から離れるつもりで宿舎にも入るハズだったのだが宿舎の管理人と騎士団の総長から「実家から通ってくれ!」と懇願された。
当時の私は只々困惑したし、ここでも拒絶されるのかと悲しい気持ちになった。
それが思いやりからくる正しい判断であったのだと思い知らされたのは、私が彼女に続けて姉と義兄を失って間もなくのこと。
***
大きさと色合いに差はあるが、圧倒される威厳と存在感に心から絶望したくなる。
「おやおやおや、顔が青いですね? もっと感動してくださってもよろしいでしょうに」
今すぐにドラゴンの餌として放り投げたいくらい下品な笑みを浮かべ、自身の勝ちを確信している主犯格が逃げ出す前に仕掛けを作動させる。
仕掛けと言っても単純なもので、大量の水を圧縮させて作った矢が最後には合流するというだけの事。
グラニエール家に伝わる技能の一つで川の流れを参考にして生み出されたものだが、魔力を大幅に消費する上に調整が難しく。泥よりも沼に近い状態となったゴーレムの右半身が少し可哀そうな感じになってしまった。
唐突に足場が崩れた事で間抜けな落ち方をする主犯格のアホ面に向けてアクアバレットを五発ほど放ってから姪の友人・ハンナ殿を回収する。
アンジェラ曰く、無茶をする性格だと聞いていたが見た限りケガは無いらしい。
「アリスティア副団長、ここは私に任せて貴女は操舵室へ――」
人質は無事に救出できたが危機的状況は変わらないため、内部を熟知しているアリスティア殿に頼ろうと振り返ったら「後ろ!」と遮られ、咄嗟に主犯格がいる方を向く。
しかし、当の本人はゴーレムだった塊に頭から突き刺さっている状態で藻掻いていた為、ある意味で動揺してしまった私の顔面を灼熱が襲う。ものすごく痛い上に視界を遮られて焦るが、真正面から迫る気配は感知できたため水の刃とアクアバレットで距離を取らせる。
顔もそうだが眼球を潰されたのは痛いな。仕方ない、首を切って必要な分の血液を出そう。
すぐさま行動に移し、顔と眼球を修復した私の視界に入るのは黒いローブで身を包んだ知人の姿。
「じゅりあ……?」
「信じていた相手から裏切られる気分は如何ですか? 付き人様」
時々耳にする蔑称が相手の口から発せられ、これが現実だと思い知らされる。
幼少期に紹介されて以来の仲だったが、いつも姉の傍に控えているだけで遊び相手どころか会話らしい会話もなく姉の後ろから凄い形相で睨んでくる子。という印象が強かった。
「それにしても上手く引き剥がしてくれると期待したのに、アレには心底ガッカリですね」
アレ、というのが誰を指しているのかぐらい考えなくてもわかる。
いつもの気まぐれだと思っていた呼び出しが仕組まれていたもので、何よりも当人の気持ちを無視した行動だと知って黙っていられるはずもなく。
「貴様、アンジェラの気持ちも考えないでかってなこと――」
「グラニエールの名を汚す不良品が気安くお嬢様の名を口にするな!」
怒号と同時に放たれた炎の刃を水の盾で消火し、盾をドーム状に変えて「なぜハンナ殿たちや天空島を巻き込んだ?」と問えば「不純物を取り除く為ですよ」という答えが返ってくる。
「身分も弁えず友達を名乗る取り巻きに気色の悪いガキなど、お嬢様の周りには不要ですから」
至極当然のように続いた言い分は幼稚を通り越して別の生物としか思えず、これ以上の対話は無駄だと判断した私は「一つ聞きたい」と言いながらドームの内側をつまみ、自分の方へ引き寄せる。
「キミは、いつから火魔法が使えるようになった?」
つまんでいた分が死なない程度に水分を奪う礫となるよう細工して質問を言い切る前に発射。相手が質問の内容を理解するよりも早く礫は着弾し、うるさい断末魔が響く。
「変装する相手の属性くらい調べておきなさい。ヴァイアス殿下」
断末魔が小さくなってきた辺りでアリスティア殿のところへ急ぎ合流し、三人をドームの中へ入れる。
「グラニエール団長、傷が……っ」
「もう塞がりかけていますので気になさらず、それよりも操舵室へ向かいましょう」
首の傷を気にかけてくれるアリスティア殿を言いくるめ、危険地帯からの脱出を優先させる私に学生の一人が「あの、第一王子は?」と問うてくる。
「死なない程度に干からびているだけで少し経てば元に戻ります」
ハンナ殿を地面に寝かせた私が顔を上げると、何故か三人ともが青ざめていた。
もしや発言内容が衝撃的過ぎたのだろうか? 問題行動を起こしたとはいえ、下手をすれば私の首が落とされかねない地位を持つ相手。もしもの時に備えて脅迫しておいた方が良いだろうか……。
「殺しも捕縛もせず放置とは随分なめられたものですね」
怒りを孕んだ粘着性のある声が聞こえたと思ったら、脇腹を刺される。
見れば、ナイフを握った一本の腕が地面から生えてきていた。ヴァイアス王子の時と言い、魔力の配分を無視した結果なのか加齢による体力の衰えか気配の読み方が雑になっているな。先ほどの火魔法によるダメージも効いているのか暑いのに寒い気がする。
そんな事よりも脇腹を刺してくる相手が全体像を出す前にアリスティア殿たちを逃がさねば。
「アリスティア殿、彼女たちを頼みます」
ドーム状にしていた水の盾を解除し、その際に散った飛沫を集め直して水の竜巻に変形させて四人を中庭の出入り口まで押し流す。
中庭の惨状が悪化したところでナイフを抜かれ、崩れる私を見下ろすのは泥まみれの主犯格。
「おやおや、見た目に寄らず随分と荒っぽい方だ」
見せつけられる血濡れのナイフを無視し、脇腹に手を伸ばす。
しかし患部に触れた瞬間、強烈な蹴りを入れられて意識が飛びそうになる。なんとか耐えたものの体に力が入らず仰向けで倒れる私を見下ろす主犯格の顔は、寒気がするほどに下卑たものだった。
「本当に見惚れるほどの美しさだ。欲しがる連中の気持ちが理解できる」
鋭利な土の矢に両掌を貫かれ、再び作り出されたゴーレムに両足を潰される。
矢継ぎ早に襲ってくる激痛で薄れていく意識を必死につなぎ、少ない魔力でアクアバレットを放つが容易く回避されてしまい、そうこうしている内に主犯格の手が粘っこい触れ方で頬を撫でてくる。
「気安く触れるな、三下が」
言い放った瞬間「美しくない口ですね」などと意味不明な事を言われ、口の中に土を詰められる。
ゴミや木材を放り込まれた事はあるが土は初めてだな。と、現実逃避にも似た記憶の回想をしていた私が破かれる衣服を他人事のように眺めていたら突然、主犯格が黒い影と共に横へ飛んで行く。
驚いて飛んで行った方を見ると黒く鋭利な槍が主犯格を貫いており、青い体液が地面に滴っていた。




